末廣誠と仙台ニューフィル

 一昨日、先週の土曜日は、勤務先の高校の文化祭だった。ところが、何しろいまだにコロナ禍である。事前に申請した生徒保護者だけ入場を認めるという「内覧会」方式をとって、公開時間も短く、慰労会の類もなかった。そこで私は、これ幸いと早々に学校を抜け出し、仙台に行った。仙台ニューフィルハーモニーというアマチュアオーケストラの定期演奏会があったのである。かつての同僚がメンバーにいて、いつも招待券を届けてくれる。
 指揮は末廣誠。曲目はヒンデミット組曲「気高き幻想」と、ブルックナー交響曲第4番。指揮者にも曲目にも引かれて行った。
 私が、このオーケストラの演奏会に行ったのは、おそらく6回目なのであるが、そのうち2回は学生時代、まだ高校の先生が指揮をしていた1986年(第8回定期=ギターの山下一仁が客演)、87年(第9回=なぜ行ったか憶えていない)という大昔なので、実質的には2009年(第50回)以降、2012年(第55回)、2020年(オータムコンサート)で、今回(第72回)となる。この4回の指揮は全て末廣誠氏だ。いろいろな指揮者が入れ替わり立ち替わり指揮台に立っているのに、私が行った4回が末廣誠というのは、おそらく偶然ではない。(文末の注に補足あり)
 末廣誠がニューフィルの指揮台に立つのは1991年からである。既に30年を越えた。しかも、私が行った第50回はマーラーの第9番、第55回(創立30周年)はブルックナーの第8番、そしてオータムコンサートこそベートーベンの第6番だったが、今回はまたブルックナーである。どうしても都合が付かず行けなかったのだが、2015年の第60回におけるショスタコーヴィチ第7番というのもあった。第55回のプログラムに載っている団の演奏史を見てみると、「第何十回記念定期」「創立何十周年記念」といった特別なコンサートでマーラーブルックナーなどの大曲を取り上げる時に、意識的にこの人を呼んでいるのが分かる。「大きく難しい曲は末廣先生の棒で」という絶対の信頼があると見える。
 私もマーラーの9番を聴いた時に感銘を受けてファンになった。アマチュア相手に、とても緻密で手堅い音楽作りをする。誠実極まりない職人、と見える。内外あちらこちらのプロ・オーケストラにも客演していて、仙台フィルを指揮する機会もあったようなのだが、私はニューフィル以外で聴いたことがない。プロに対するのとアマチュアに対するのと、やり方が違うのかどうか、一度プロ・オーケストラの演奏会でこの人を聴いてみたいものだと思うが、今に至るまでチャンスがない。年齢の近い佐渡裕広上淳一大植英次などに比べて、実力において劣っているとは私には思えないのだが・・・。
 一昨日の演奏会も、いい意味でまったく予想通り、期待したとおりの濃密なブルックナーを聴くことができた。
 ベートーベンの交響曲は、9曲それぞれに際だった個性と特徴とがあって、どの1曲を欠くこともできない。しかし、ブルックナーは7~9番の3曲だけあればいいや、と時々思う。
 第4番は、作曲者のあずかり知らない「ロマンチック」などという標題が付いている上、ブルックナー交響曲の中では短め(それでも70分弱!)なものだから、ブルックナー交響曲の中では演奏機会が多い。しかし、私はあまりにも久しく第4番など聴いたことがなかったので、1週間ほど前に楽譜片手に聴き直してみた。ラックから取り出したのは、あまり意味もなく、カール・ベーム指揮ウィーンフィルの演奏であった。不覚にも第3楽章で寝入ってしまい、手から楽譜がぽろりと落ちて目が覚めた。
 ところが、末廣+ニューフィルの演奏を聴きながら、私は1秒たりとも退屈しなかった。高い集中力に支えられた実に素晴らしい演奏である。数日前に録音を聴きながら寝てしまったのは、曲の問題ではなかったのか・・・と思った。いやいや、ブルックナーだけではない。ヒンデミットだって、私はライブで聴いたのが初めての曲だったのだが、作品が自分のものになっている、という印象を受けた。
 仙台ニューフィルは、アマチュア・オーケストラとしては演奏レベルそのものが高い。そんなオーケストラが、なかなか聴く機会の少ない難曲、大曲に意欲的に挑戦してくれるのは嬉しい。プロのオーケストラは、経営を考え、もっと一般受けのする曲ばかりを取り上げる傾向があるからである。それにしても・・・一昨日の聴衆の入りは、おそらく2割程度(!?)。客席はがらがらであった。せっかくいい演奏をしているのに、なんとも残念であり、気の毒であり、もったいないと思った。少し宣伝にでも協力せねば・・・。

 9月30日に始まった私の音楽週間も、これでおしまい。次は来年まで予定がない。秋の寂しさ。


 

(注)正確に言えば、2020年のオータムコンサートに行った理由は、末廣誠でもベートーベンでもない。なにしろコロナ1年目である。3月以降、あらゆる演奏会が中止となった。そんな中でニューフィルがライブをやるというのは嬉しかった。とにかく、生の音楽が聴きたかったのである。