とりあえず復活!ラボ

 昨日は、ラボ・トーク・セッション第23回を開催した。なんと、2020年2月以来、約2年半ぶりである(→前回の記事)。
 2020年4月に第23回を開催する予定で、講師も決まり、チラシも作って宣伝を始めていた矢先、コロナ対策による全国一斉休校という大事件が起きた。ラボもやむなく中止とした。今回、ほとぼりが冷めたとして再開を果たしたわけだが、以前と同様に、とはいかない。とりあえず飲食はあきらめることにした。すると、夜である必要がなくなった。そこで、時間を土曜日の午後に移すとともに、高校生をターゲットにすることにした。会場も少し広めのところを用意した。
 私の思想信条に反して、ネットでチラシを注文し、2200枚も印刷した。信じられないくらい安い(ラボは零細会計)。それを、石巻地区の3つの普通科県立高校で全校配布してもらった。
 残念ながら、高校生は1人も来なかった。ただ配っただけではダメなのだ。教員が参加を促さなければ。その辺のてこ入れが少し甘かった。しかし、例えば私が今回(動物生態学)のチラシを社会の先生に手渡して、「来ない?」と声をかけると、「私、理科じゃないから」といった答えが返ってくる。こういうことは全然珍しくない。ははぁ、この了見では、生徒に勧めるとしても、「行ってみたら?あんた大学で動物学勉強したいって言っていたでしょ?」みたいな勧め方になってしまう。利益との因果関係が明瞭でないものは、「役に立たない」と言って切り捨ててしまう世界だ。政治によく表れている目先の利益主義は、こうして教員、いや大人が子供にすり込んでいるのである。
 さて、肝心のラボ。
 諸般の事情で、2年半前に約束していた講師ではなく、今回お願いしたのは石巻専修大学准教授・辻大和(つじやまと)氏。石巻に来て3年目、石巻専修大学のエースと評価する人さえいる若き気鋭の霊長類(サル)研究者である。
 私は、この先生どうだろう、という話になった時に、先生の著書『与えるサルと食べるシカ つながりの生態学』(地人書館 2020年7月)を読み、文句なしにすばらしい、ぜひラボに、と思った。何が素晴らしいかというと、① 研究の動機が純粋である、② 地道な作業を長い間根気よく続けている、の2点に集約できるだろう。地に足のついた、本物の研究者だと思った。
 動機が純粋というのは、動物が好きで、上野動物園でのボランティアをきっかけにサルに興味を持った、というだけで、これを研究すれば何の役に立つ、というような打算的なものがないということである。ただただ、サルの謎を解き明かしたい一心で研究をしている。
 地道な作業を根気よく、というのは、先生が、金華山のサルを20年以上にわたって観察し続けてきたということによく表れている。修士課程の時に、学会で調査の途中経過を発表したところ、「あと何年続けるのか?」という質問が出たので、辻先生は「20年くらい」と答えたそうである。会場からは笑いが漏れたそうだ。ここに、辻先生の腹の据わり方と、短い時間スケールで結果の出ることしか考えられない昨今の哀しい研究者の姿が、鮮やかに対比されている。そして、実際にその後20年以上にわたって、先生は調査を継続したそうだ。
 今回の講演の中でも語られたことだが、先生はサルの糞を2000個集めて、その全てについて、中にどのような植物の種が含まれているか調べたそうである。口で言えば簡単なことだが、それを実際にやり通すことにどれほどの根気と時間が必要か。そして、その作業を支えたものは「知りたい」という純粋な気持ちなのである。
 ラボで、先生は植物とサルの共生関係として、サルが植物の種子の運搬と発芽にどのように貢献しているかということを中心にお話しされた。大半は本に書いてあることだったが、更にふんだんな写真と補足を加えたことで、新鮮な気持ちで聞くことができた。
 今回の参加者は、以前の半分強に過ぎない14名(主催者除く)。それでも、講演が終わった後は、飲食物が一切なかったにもかかわらず、辻先生を質問者が取り囲み、参加者同士の会話も続いた。私は、先生のお話が終わった後、ただ沈黙だけが支配し、予定よりも早く「ではお開きに」となるのではないかと思っていた。それは杞憂だった、ということである。雰囲気としては、以前のラボとさほど変わらず、よかったと思う。
 会場を借りていた時間ギリギリまで交流の後、有志4人で辻先生を囲む会を駅前の居酒屋で行った。お酒を飲みながら、延々4時間以上、サルの話だけではなく、過去のラボに関すること、その他諸々の話で盛り上がった。飲み過ぎてしまったけれど、いい時間だった。
 さて、次回はどうしようか?高校生の参加をどうやって実現させるかも含めて、あれこれ作戦を考えねば・・・。