もったいない魔法瓶

 我が家には1台のポット(魔法瓶と言った方がイメージに合う)がある。上の部分を押すと、空気圧の作用で蛇口のような所からお湯が出てくる、いわば第2世代とも言うべき古い魔法瓶だ(第1世代は、傾けてお湯を出すやつ=私の定義)。何しろ、消費エネルギーの少ない生活をすることがほとんど絶対の価値観である私のことだ。電気の力で湧かしたり保温したりという機能など付いているわけがない。いつから使っているかも憶えていない。(参考→電子レンジを34年間使った話
 その調子が悪くなった。湯が出にくいのである。それからわずか2~3日で、完全に出なくなった。なにしろ単純な構造なので、開けてみれば、原因はすぐに分かる。中栓というものの軸が根元で折れたのだ。
 よしよし、中栓くらい買ってくればいい、1000円もしないだろう、と思い、ネットで値段を調べてみた。言うまでもなく、地元のお店の維持・活性化、そして配達用のトラックの燃料消費などを考え、私はそんなものを通販で買ったりはしないのだが、電気屋さん(電気は使わなくても、ポットの守備範囲は電気屋さんらしい・・・不思議)に行く前に予習をするのである(世の中の人は逆で、お店で見ていいと思ったものを、安いからと言ってネットで注文するらしい=平居の常識は世間の非常識、世間の常識は平居の非常識)。
 驚いたことに、中栓は愚か、我が家のものと同じ魔法瓶自体が探せない。仕方がないので、直接電気屋さんに行った。電気屋さんも、機種そのものが探せないと言って、親切にもメーカーに直接問い合わせてくれた。すると、「この魔法瓶は1991年で製造が終了しているので、部品も既に手に入らないそうです。何かの間違いで中栓の在庫が残っていないか聞いてみましたが、ないとのことでした」という返事が返ってきた。へ、恐れ入った。私は30年以上、おそらくは40年近く、この魔法瓶を使っていたのだ。もしかすると、就職した時(35年前)に買ったのかも知れない。
 物が売れないとメーカーは困るので、わざわざ壊れるように製品は作るものだ、買い換えを促すため、修理部品も製造終了後、7~8年しか保有しないようにしている、というような話は聞いたことがあった。しかし、我が家で使っているものなどは、基本的にまず壊れないし、壊れた時には買い換えざるを得ないことが分かるものも多いので、部品の必要性を感じたことは少ない。
 3年あまり前に、15年くらい使った石油式の給湯器が壊れた。業者に頼んだら、しばらく前に在庫切れになっていたらしい缶体というものを、どこからか探し出してきてくれて、「未使用ですけど、これも古いので、すぐに壊れても恨みっこなしでよければ交換しますよ」と言う。私は、未使用品が3年で壊れたりはしないだろう、まだ使える部分の多い立派な機械を捨てるのはもったいない、と思って交換してもらった。今も給湯器は順調に動いている。
 それにしても、たかだか魔法瓶である。「傾けなくても押せば出ます」に私が魅力を感じたとは思えないが、おかげで中栓という部品が増え、その分、壊れやすくなった。魔法瓶本体はただのガラスボトルなので、ほとんど半永久的にもつものである。中栓が壊れたくらいで、それを捨てるのはあまりにももったいない。複雑な電子機器ならともかく、こんな単純な部品くらい、少なくとも40年や50年は入手可能な状態にしておいてくれないと困る。地球に対する反逆である。いや、本当は、魔法瓶など第1世代で十分なのだ。昔、中国で使っていたような(日本にもあったかも)コルク栓の魔法瓶ならなおよい。物は単純な構造の物ほどエコだ。
 というわけで、私は目下、中栓をどうやって手に入れるか、もしくは、中栓なしでどうやって使うか、を考えている。もったいなくて、とても捨てられない。どなたか、知恵があったら下さい(中栓を売ってくれるならなおよい)。ちなみに機種はTigerのPOS-2200というものです。