驚愕のワールドカップ

 こんなタイトルを付ければ、天の邪鬼な平居も、さすがに日本がドイツに勝ったともなると、人並みに驚き熱狂するのだな、と思う人も多いであろう。確かに、私は日本・ドイツ戦を最初から最後まで、1秒も目をそらさずに見ていて、試合が終わった時にはそれなりの高揚感も感じ、娘と大騒ぎをしていた。しかし、今日の「驚愕」は、試合そのものについてではなく、翌朝(つまり昨朝)手にした新聞についてである。
 我が家は、毎朝5時半に、息子が外のポストに新聞を取りに行く。手にしてびっくり、河北新報は、第1面トップに、1面の4分の1くらいの大きさで「日本 ドイツ撃破」と写真入りの記事を載せた上、10~11面のほぼ丸々2面を、写真中心ではあるが、日本・ドイツ戦のページとし、更に23面に「逆転ゴール 現地も熱狂」という記事を載せている。試合が終わったのは、日付が変わる正に直前23:59であった。
 残り10分で2~3点差が付いていれば、勝ちを見越して記事の準備にも入れるが、23日の試合は最後までどうなるか分からなかった。ロスタイムに入る頃には、「負け」はないかなとは思ったが、同点なら十分あり得る。アディショナルの7分がとても長く感じられた。記事は最後の笛が鳴った後にしか準備できなかっただろう。
 河北新報石巻に届ける版の原稿締め切りが何時かは知らない。起こった出来事と、それが載っているかいないかを考えてみると、0:30頃ではないかと推測できる。だが、30分で大きく紙面を組み替え、記事を準備できるだろうか?しかも、新聞は記者が書いたものをそのまま記事にしたりは絶対にしない。少なくとも、別な記者と校閲係、そしてデスクの目は通っているはずだ。そんなチェックも含めてとなれば、どう考えても30分では無理だろう。サッカーのワールドカップは一大事だからということで、締め切りを更に30分遅らせることができたとしても、私には「神業」に思える。
 たまたま、昨日の午後は、NIEの仕事で河北新報本社に行った。朝、新聞を手にした時の驚きと感動とを伝え、どうやってあの記事を準備したのか、社の方にあれこれ尋ねてみたのだが、残念ながら、私が接する人は「防災・教育室」の人で、記者とは言っても、ワールドカップの記事を準備しているその場に立ち会っていたわけではない。また、最終の締め切り時刻は「社外秘」になっているらしい。というわけで、社内にワールドカップ報道のための特別チームが作られ、そこが大変な思いをして書いたらしいことは分かったが、それ以上のことは分からなかった。
 ネットの時代にあって、新聞は速報性において絶対にネットに勝てない。それ以外の価値、すなわち信頼性とか掘り下げとかで勝負するしかない。しかし、やはり日本・ドイツ戦の結果を翌々日の新聞で大々的に取り上げても、やはり興醒めな感じがする。私が見た全国3紙+河北で、結果を載せていたのは読売と河北、途中までの報道に止まったのが朝日と毎日であった。報道できない方が悪いのではなく、報道できた方がすごいと思う。あっぱれだ。
 また、読売、河北が試合結果を載せられたのは、記者の努力もさることながら、一瞬にして大量のデータを送ることができる情報通信技術の発達あればこそ、である。8000㎞離れたカタールから写真が届き、本社で版組みされてから、10キロ離れた印刷工場にそれを送り、あっという間に刷り上げる。文明には冷たい言動の多い私だが、今回に関しては斜に構えることなく、ただただ感心した。