大仏鉄道…京都・奈良家族旅(6)

 家族で旅行をしていて、特に気になったのは、拝観料・入場料といったものの高さだ。親子4人で入場すると、一か所で大抵2000円前後かかる。今回は行かなかったが、法隆寺なんて、5000円近くにもなるらしい。また、常に期間限定「〇〇特別公開」とか「〇〇特別展」といったものも行われていて、これが通常の拝観料とほぼ同額の見物料を別に必要とする。1日に1〜2か所で済むならともかく、4か所、5か所となると、金額は万を超え、負担感は非常に大きい。とても見に行けない、という人がいても不思議ではない。
 繊細な京都の庭園(国宝に指定されている庭園はないと思うが、国宝となっている建造物や物品と一体で管理されている)は、維持管理に途方もないお金がかかるのは確かであろう。だが、国宝とて、そのようなものばかりではないし、「国宝です。見ておいた方がいいですよ」と言わんばかりの宣伝が行われているのを見るにつけ、なぜ「国民の宝」(文化財保護法の言葉)を日本人が見るために、これだけのお金をいちいち払わなければならないのかと、少し腹立たしくもなってくる。
 文化財保護法によれば、国宝の管理は基本的に所有者の責任である。私は、そもそも「所有」という考え方がよくないと思う。「国民の宝」である以上、所有者は国民であって、管理者は「占有」者であるべきだ。何もかもをその所有者に委ねるのではなく、日本人みんなの共有物として国と管理者の役割分担、維持管理費用の分担を考えるべきだろう。少なくとも、それが不当に高額になっていないかどうか、少なくとも国宝だけは、もうけのネタにならないように収支決算を明らかにした上で、国民がその価値を少しでも享受しやすいような状況を作っていくべきなのである。
 もっとも、かつての中国で「外国人料金」に愉快でない思いを味わったことのある人間としては、日本人だけタダにして、外国人からは金を取れ、とも言いにくい。バガンアンコールワットのように、京都エリアフリー拝観券(日数×1000円(以下)くらい?)を出すのも手だ。
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 奈良市内の観光案内所で、「幻の大仏鉄道 遺構めぐりマップ」というパンフレットが目に止まった。1枚もらって、名古屋行きのバスの中で読んだ。発行しているのは奈良市木津川市で、協力として大仏鉄道研究会他の名前が列記されている。
 それによれば、大仏鉄道とは、関西本線の加茂〜奈良が開通する前、現在の関西本線よりも東寄りのルートで開業した鉄道らしい。明治31年に加茂〜大仏、翌32年に大仏〜奈良が開通したが、より平坦な木津経由のルートが開通したことで明治40年には廃線となった。だから、正式には関西鉄道(JR関西本線の前身)であり、「大仏鉄道」は東大寺大仏殿の最寄り駅として大仏駅があったことにちなむ愛称である。「(引用者注:開業当初、大仏駅は)大仏殿の最寄り駅として大いに賑わいました」と書かれているが、大仏駅も、近鉄奈良駅よりは大仏殿から遠く、JR奈良駅といい勝負である。あくまでも、名古屋方面から奈良を目指す人にとって終点だったからの賑わいであろう。存続していたのはわずか9年間だが、赤い蒸気機関車「電光(いなづま)号」が走っていたなど、話題性も高い。
 鉄道というのは大がかりな施設を必要とするので、廃止後も痕跡が残りやすい。パンフレットによれば、実際、かなりの数のトンネルや橋梁が当時をしのばせる形で残っているようだ。更に帰宅後、大仏鉄道研究会のホームページを開いてみると、なかなか立派な研究の積み重ねがあることに驚く。全国におびただしくある廃線跡の中で、これだけ大切に扱われ、探求が続けられているものが果たしてあるだろうか?
 山辺の道(天理〜桜井)、飛鳥など、のんびり歩いてみたいと思いながら、どうしても果たせずにいる歴史的な場所は多い。それらが実現しないうちに、大仏鉄道跡が新たな宿題になってしまった感じがする。(完)