ポケモンGOと私(笑)

 高校はいよいよ明日から授業。もちろん、年が明けてからは仕事に行っていたが、生徒のいない学校というのはとても静かでのんびりしているので、仕事をしているという実感が持ちにくい。明日こそ始まり、というのが実感だ。
 というわけで、冬休みの最後に、部屋に散らばっている新聞類を整理していたら、1月3日付河北新報の第1面が目にとまった。3日には、おそらく興味が持てずに読んでいなかった記事だ。「トモノミクス 被災地と企業」という連載の第1回。上3分の1を占める写真には、マンガ館を背後に、スマホの画面を差し出している中年男性の写真が写っている。「亡霊たち」(→こちら)の記憶が蘇ってきて、あまりいい気持ちがしない。
 写真のキャプションにある「河合さん」って何者かな?と思ったので、軽く記事に目を通すと、「河合敬一さん(41)」と書いてある。えぇっ!とてもよく知っている。15年くらい会っていないうちに太ったのと、さすがにずいぶん「おじさん」の風貌になったのとで、写真を見ただけでは気付かなかったのだ。そうと知った後でさえも、その顔が「河合」に見えてくるまでしばらくかかった。
 かつて、県内のある高校生団体(→こちら)で、仙台市内某校の生徒として関わった。「教え子」とは言えないが、私が顧問団長で彼が実行委員長だったので、なまじ「教え子」よりも濃密に長い時間を共有した。よくけんかもした。2年くらい前の飲み会で当時の仲間から、彼がGoogleの高い地位に就き、アメリカで暮らしていることは聞いていたけれど、それ以上の消息を耳にしたことはなかった。めちゃくちゃに頭の回転が速く、即断即決、必要とあればまわりの仲間が追いつけないうちに突っ走る。だから、リーダーとして有能である反面、反感を買う場面も多かった。
 こともあろうに、記事には、「ポケモンGOの運営会社」の「製品本部長」で、「GPSを使った位置情報システムのプロ」として「実際に街に出てプレーする画期的なゲームの核心技術を支えた」と紹介されている。う〜ん、こうして私が、大嫌いで軽蔑している「ポケモンGO」と間接的に関わりを持っていた(笑笑)とは驚きだ。
 記事をよくよく読んでみると、彼は震災当時シリコンバレーに住み、聞いていた通り、Googleの地図担当責任者だったらしい。震災時、手元に届いた衛星写真を見て「社内で議論する時間も惜しい。独断で画像情報を発信」する一方で、「被災前の自宅が映る唯一の写真」を消さないで、との被災者の声には、「必ず残す」と約束して「タイムマシン機能」を生んだ、とある。私の知る彼の姿と非常によく重なり合う。記事は最後に、「もうけが第一ではない。より良い社会をどうつくるか、真剣に考える。それが企業価値の拡大につながる」との彼の言葉を引く。とても立派な心がけだ。
 しかし、彼が現在所属するナイアンティックというアメリカの会社は、社是が「アドベンチャー・オン・フット(歩いて冒険に出よう)」であり、それは「自分の周りに何があるのかを知り、周囲を幸せにする。それが世界中で起これば世界は良くなる」という思想に基づく、となると、私の心の中には「?」が渦を巻く。ポケモンGOでキャラクターをゲットするために街に出た人が、果たして周りに関心を持ち、周囲を幸せにするだろうか?むしろ、あの小さな箱の中に現れる虚構のキャラクターを、さも大切なものであるかのように扱う中で、柔軟に思考して正しい価値観を持つことも、現実を正視することも出来なくなる弊害の方がはるかに大きいのではあるまいか?
 「より良い社会」を作るのは確かに大切だが、「より良い社会」を、現在一般に考えられているように、「より多くの人のより多くの欲望を満たすことが可能な社会」としてしまったのでは、後世に禍根を残す。「より良い社会」とは何か?それを根源まで深く問い直すことこそが大切である。その点について「真剣に考え」た時に、ポケモンGOが生まれてくるとは思えない。
 心が外に開いていて、好奇心や人間愛があれば、どんなに狭い場所で生活していても、豊かな発想と優れた世界観を持つことが出来る。このことは、宮沢賢治を見ているとよく分かる。一方、どんなに新しい文明を受け入れ、刺激に満ちた中で生活していても、心が柔軟でなければ外からも過去からも学ばないことは、人々が津波の教訓を過去から受け継げなかったことや、環境問題への対応によって証明される。大切なのは、心のあり方に尽きるのである。
 とは言え、どうすれば理想的にオープンで柔軟な心のあり方は作られるのか?それは私にもよく分からないのだけれど、少なくともスマホの画面をのぞき込みながら街を徘徊することは、逆行こそすれ、まったくプラスの作用は催さないのではないか?時代遅れな私はあれこれと思い悩んだ後に、やはり、大人が文明を過信せず、原点と理念に基づく考え方と知識とを、至って素朴な方法で、幼いうちから地道に教育していくしかない、という考えにたどり着いてしまう。
 河合との距離は住んでいる場所以上に遠い。あまりにも異質なので、かえって楽しく酒は飲めると思うけど、ね・・・。