敵情視察?

 例によって週末は忙しい。昨日は、3時から石巻市子どもセンター「らいつ」という所に、ナイアンティックという会社の方の講演を聴きに行った。ナイアンティックとは、もちろん、私が食わず嫌いをしている(と言うより、スマホがないので食いようがない)「ポケモンGO」の運営会社である。先月の市報だったかでこのイベントを知り、怖いもの見たさ、というか、敵情視察というか、単なる雑学というか・・・、とにかくどんな「言い分」を持っているのか、聞いてみたくなったのである。
 定員は40名と書かれている。申し込みは特に必要としないようだ。何しろ、ちょっと珍しいキャラクターが現れるというだけで、万単位の人が石巻に集まってくる「ポケモンGO」である。運営会社の人が来て講演をするとなれば、数百人は集まるに違いない、と思ったが、あまり早く行き過ぎても退屈しそうだったので、15分前に会場に着くように行ったところ、30ほど並んでいる椅子に、数名が座っているという状態だった。
 受け付けで記名をする。名前や住所、電話番号、年齢といったことを書く欄の他に、ゲームをする時のグループ分けに使うらしい欄が設定してあったので、まずい、みんなでスマホを使って、ポケモンGOワークショップでもするなら困ったぞ、と思った。受け付けの人に、「私はポケモンGOしないし、携帯電話も持っていないんですけど、話聞くだけでもいいですか?」と尋ねると、極めて事務的に「どうぞ」と言われた。「えっ!?なんだこいつ・・・!!」みたいに驚いて欲しかったな(笑)。
 時間になってもほとんど人は増えず、大人が15人と子供が5人くらい。最前列を占拠した子供たちは、小学校低学年なのに子供用と思しきスマホをいじっている。そろいもそろって体型は太めだ。不健全な豊かさを象徴しているようで、少しストレスを感じてきた。集まった大人のうち何人かは、石巻市やこの講演を企画した団体の方、つまりは関係者のようで、本当に「一般」の大人参加者は、おそらく10人に満たない。話が始まると、期待外れだったらしく、子供はすぐにいなくなった。
 話者はナイアンティック・アジア統括マーケティングマネージャーの須賀健人氏(40歳くらいか?)、演題は「リアルワールドゲームの目指す未来」。広告では2時間ということだったが、話は45分。主催者の前置きと質疑を合わせて1時間強だった。ワークショップはなかった。
 話は十分に面白かった。グーグル・マップを作ったジョン・ハンケという人が、PCゲームに没頭する自分の息子に問題を感じ、部屋に閉じこもるのではなく、外に出るゲームを作ろうとして生まれたのが、第1作のIngressだ、何年か前のエプリールフールに、ポケモン好きの野村タツオという社員が「グーグルマップにポケモンが出る」という書き込みをしてしまったのがヒントになって、ほとんど偶然のようにポケモンGOが生まれたというような歴史についての話から、ポケモンGOの反響、予想外だったこと、なぜポケモンGOは人々に受け入れられたのかといった分析などなど・・・。退屈する瞬間はなかった。
 ゲームの力で人を外に引っ張り出す。誰がやっているか分かることで、体験の共有→仲間意識を作り出すといったことは、これまでのゲームが閉じこもり型、孤立型であったことを思うと立派なものだ。プロモーションビデオを見ていると、スマホを片手にした人々が、からりと明るい生き生きとした表情でポケモンGOに興じている。
 なかなかやるなぁ、と少しは思うが、やはりちょっと待てよ。石巻に数万人の人が来た去年の11月に、私はこんな表情の人を一人も目にしていないぞ。たいていは、あまり生気のない表情で、うつむき、スマホの画面をのぞき込みながらぞろぞろ歩いていた。
 少なくとも私はポケモンGOなんてなくても外に出るし、遊ぶ相手にも困っていない。仮にそうでなかったとしても、やはり、ポケモンGOは、スマホという小さな箱に操られているようで嫌だな、と思う。少々極論風だが、人からこんなゲームを提供してもらわなければ、外にも出ない、人とのつながりも出来ない、というのでは困る。人間は文明の利器に頼れば、確実にその分だけダメになるものだ。なにも数万円のスマホを持たなくても、数百円の紙の地図を手にすれば、それだけで想像は広がり、楽しい場所なんていくらでも見つかるんだから、そういう情報の手に入れ方をこそ身に付ければいいのに・・・。いつぞや書いたように(→こちら)、ポケモンGOによって外に出た人が、本当に広い世界に目を見開くなんていうことが起こるのかな?と、その点でもいまだに懐疑的だ。
 結局、「ああ面白かった。だけどやっぱりスマホだのポケモンGOだのなんていらねぇなぁ」と思いながら会場を出たのだが、わずか10人の会社(=日本にあるナイアンティックのアジア本部のような所。世界全体としてはもう少し大規模)で、これだけ人の心と行動とを動かし、各国を飛び回りながら仕事をするのは楽しいだろうなぁ、という思い、本当にこのゲームが人間にとって「善」だと信じていられるのはうらやましいなぁ、という思いこそが強かった。ポケモンGOに興じていた人があれだけたくさんいるのに、それについての話を聞こうという人はこれほど少ないものなのだな、という驚きもあった。私以外の参会者は、スマホで講演ディスプレイの画面をせっせと写真に撮り、私だけがノートを広げて、鉛筆(シャープペン)でメモを取っていたのは、我ながら滑稽だった。
 ま、どちらかの思想で決着を付けよう!などと考えなければ、異質な世界は楽しい、ということでおしまい。次は河合敬一来ないかな?