一切経と東吾妻

 GW後半の4連休、最初の2日間は仙台一高山岳部のOB組織である「仙台一高山の会」のおじさん(名目はコーチ)として、現役の新歓山行に付き合っていた。他のおじさんが誰も参加できなかったので、「私でよければ」と名乗りを上げたのである。
 目指したのは東吾妻。昨日は、車で磐梯吾妻スカイラインを通って浄土平(1580m)まで上り、一切経山(1949m)に登って酸ヶ平小屋に泊まり、今日は東吾妻山(1975m)に登り、浄土平に戻ってから吾妻小富士(1707m)のお鉢巡りをするというコースである。高校山岳部の山行として、なんだか涙が出て来そうなくらいささやかな、ハイキング的な山行だ。
 しかし、今年は3名の1年生が入部したこともあって、テンションはなかなか高い。新緑が盛んに芽吹いているところに残雪が残り、山は一年で最も美しい季節だ。しかも、完璧な快晴が約束されていた。実際、この2日間、雲というほどのものを一切見なかった。いくら好天と言っても、これほどの好天というのは珍しい。
 恐れていたのは人出である。スカイラインを始め、あちらこちらで渋滞の恐れがある。浄土平の駐車場に入るのも大変だ。酸ヶ平の小屋は、収容人数が最大(土間を使っても)20人くらいの小さな避難小屋だ。私たちだけで12人(生徒9+大人3)もいる。同宿者が数人もいれば、かなり窮屈になるだろう。
 渋滞はどうしようもないが、小屋については、満員対策として生徒にテントを3張り持たせ、いざとなったら小屋の周りで泊まることにした。ところが、運に恵まれた。福島駅から浄土平までのジャンボタクシーが9人乗りで、生徒だけで満員になることから、私は某顧問に拾ってもらい、仙台駅から車で浄土平を目指した。渋滞していたのは、東北自動車道に入るまでで、その後はほとんどすいすいと走れた。浄土平の駐車場にも入れたし、酸ヶ平の小屋に、同宿者は2人だけだった。それでも、男子生徒はすぐ隣の雪渓にテントで泊まらせ、けっこうゆったり快適な小屋泊となった。
 一切経山に登ったのは本当に久しぶり。前回は15年以上前だろう。その時は積雪期の3月で、一高の顧問として生徒引率だったが、高湯温泉から入った。車で浄土平に入ったなど、おそらく25年ぶりくらいだ。実は、何を隠そう、東吾妻山に登ったのは初めてであった。
 何しろ、仙台駅を10時過ぎに出たので、浄土平に着いたのは12時過ぎ。生徒の到着を待って、13時半近くに登り始め、一切経の頂上に着いたのは15時を回っていた。ほとんど雪の溶けた五色沼の深い青がとても美しかった。
 16時過ぎに小屋に入り、時間があったので、1人で鎌沼を散策した。誰もいなくてとても静かだ。鎌沼の水は透き通っている。沼の周りにも残雪があり、背の低いアオモリトドマツの林もある。それらが乾いた空気の中で日の光を浴びているのを見ていると、なんだか森と湖の国フィンランドにでも来ているのではないか?という錯覚に陥った。
 今日は、7時半に小屋を出発し、残雪を踏んで東吾妻山に登った。磐梯山猪苗代湖裏磐梯の湖沼地帯がこんなによく見えるとは思っていなかった。中途半端に雪が残り、そこから溶けた水の流れる、あまり状態のよくない道にやや苦労しつつも、11時15分頃に浄土平に戻る。一休みしてから、吾妻小富士に登った。12:20に迎えのジャンボタクシーが来ることになっていたので、時間がなかったのだが、生徒1人と顧問1人、そして私の3人だけが、ほとんど駆け足でお鉢を一周した。ここはさすがに観光客が多く、俗世の匂いがプンプンとしているが、それでも景色の美しい楽しい場所だった。
 初めて山に登り、テントや小屋に泊まった新入部員にとって、とても新鮮な楽しい時間だったらしい。新歓山行だからそれが一番。しかも、山頂からは月山、朝日連峰蔵王連峰吾妻連峰、飯豊連峰といった山々がよく見えた。あぁ、あそこに行ってみたい、そんな気持ちも持てたようで、それは今後の活動へ向けての最良のモチベーションである。私としても、本当に久しぶりで吾妻連峰の東端を散策できたのはよかった。
 ところで、今回の最大のびっくりは、スカイラインを自転車で上っていた人の多さである。標高差約1500m。老いも若きも、男も女もそこを自転車でせっせと上っている。古く、決して幅員に余裕のある道路ではないため、自転車は渋滞の原因になりかねない。そのうち締め出しということにでもなるのではなかろうかと心配しつつ、心の中で声援を送ったことであった。