びくびくと山に行く

 昨日は、新しい学校における部活デビューであった。もちろん、これまでにも校内での活動には時々顔を出していたのだが、山に付いて行ったのは初めて、ということである。
 目的地は、軽く日帰りで泉が岳(1172m)。
 ところが、なにしろ今年は例の事故で、山行には制限がかかっている。ここにも書いたとおり、12日に行われた高体連登山専門部の常任委員会という会議では、当面、雪のある山には行かないということになってしまった。4月24日の河北新報には、宮城県内の山岳部の動向を伝える大きな記事が出て、白石高校や三桜高校といった、いわゆる競技登山の強豪校の活動状況がレポートされていた。それによれば、三桜高校は蔵王に行ったが、雪が見え始めた時点で引き返し、白石高校は里山での活動をもっぱらにしているらしい。
 泉が岳は山頂付近と、北から西にかけて残雪が残っていると思われた。しかし、泉が岳は既に22日に山開きが行われた。例年の様子を思い浮かべると、雪のある場所も含めて、高齢者のパーティーや小さな子供を含む家族連れで大賑わいしているはずだ。一方、最大で50㎝くらいの残雪があったとして、雪があるから「危険」だと考え、高校の山岳部が「安全最優先」と言ってそこに行くのを自粛するというのは、どう考えても滑稽を通り越して「狂」のレベルだ。
 それでも、一応、気が小さくてコンプライアンス意識の高い私は(笑)、山行届けを提出する前に登山専門部の委員長閣下に電話をし、残雪の泉が岳に生徒を連れて行くことが、高体連として問題にならないかどうか、他校の動向はどうなっているかについてお伺いを立てたのである。それで、問題ないだろう、ということで実施となった。あー、疲れる。
 8:15に山麓の駐車場を出発。表コースを登り、裏に下って、三叉路から水神、そして山麓へと下山した。途中、読図の勉強にかなりの時間を費やしたため、下山したのは14:15。下りの雪道は、膝への衝撃が少なくて本当に快適。天気にも恵まれて、とてもよい春山山行になった。生徒はいかにも「善良で節度ある塩釜高校生」らしく、熱心に学び、残雪の山の美しさを無邪気に喜んだ。休みをつぶして連れて行く価値もある、というものだ。
 ところで、下山の途中、水神平付近で立ち止まって読図練習をしていた時、後から下りてきた老人に声をかけられた。

「若いね。いいなぁ。あ、お父さんですか?」
「いえ、顧問です。」
「あ、先生?栃木であんななことあったから、いろいろと気を遣って大変でしょう?ご苦労様です。」
「はぁ。」

 思えば、30年前、私が教員になった頃は、学校の先生だと言うと「いいですねぇ」と羨ましがられることが多かった。ところが最近は、「大変ですね」と言われることが圧倒的に多いような気がする。いったい誰が「大変」にしているのだろう?ともかく、栃木の事故で、「大変ですね」と言われる理由がまた一つ増えたわけだ。
 歩きながらあれこれ考えた。雪があるだけで直ちに危険というくらいなら、少なくとも蜂や熊退治スプレー(計2本)は必携だろう。大会が既にそうなってしまったように、いずれAEDも各部で常時携行せよ、ということになるのかな?いやいや、それだけでは済まないぞ。携帯用避雷針やエピペンのように手軽なマムシ用解毒キットとかも開発した方が良さそうだ。そして行き着く先は、そこまでして山登り、まして生徒引率なんかしてられるか、ということである。あ〜あ、本当にそれでいいのかなぁ?私には、雪の積もった山よりも、世間の目におびえる学校や、学校にオールラウンドの完璧を求める世間の方がよほど危険でやっかいだ。