これは熊が可哀想だ



 この2日間、前任校の山岳部コーチとして、北泉が岳方面に行っていた。絶滅危惧種・仙台一高山岳部に、今年はなんと3名という空前の大量入部(笑)があり、本物の「新歓山行」として、誰もがハイテンションで山に向った。

 歩き始めてすぐに某新入部員がバテて吐き気を訴え、急遽、荷分けの上、コース変更をしてキャンプサイトを目指したりもしたが、その後は、症状の悪化も新たなトラブルもなく、大量に残る残雪を踏みながら、目的のキャンプサイトにたどり着くことが出来た。初日に登る予定だった泉が岳にも今日登ることができたし、野生の狐を目撃し、天候に恵まれ、新入部員達にとって楽しい山行になったようであった。めでたし、めでたし。

 ところで、今日の昼前、泉が岳の頂上にいた時、消防署のヘリコプターが飛んできた。低空でホバリングをしながら、サイレンを鳴らしたり、何かを叫んだりしている。プロペラの音がうるさいので、よく聞こえないのだが、最後には「今日、泉が岳の頂上付近で熊を確認しました。注意して下さい」と言っていると分かった。その後小一時間、ヘリは轟音を立てながら、山頂付近を旋回していた。

 アホじゃなかろうか?と思った。もともと熊がいるのなんて当たり前の場所だし、後から勝手に人間が入り込んでいるだけだ。有名な人食い熊ならともかく、そんなものがいるはずもない。人間が変な刺激の仕方をしなければ、慎み深い熊はそっと姿を消すに違いないのである。

 ところが、消防署も消防署だが、登山者も登山者で、ヘリからの放送を聞いて、下山を始める人が少なからずいる。熊よけ鈴を付けている人が多いのは、今日だけの話ではないが、ホイッスルを吹き鳴らしている人がいるのには驚いた。あまりの騒々しさに熊が腹を立て、人間に若干の脅しをかけることで射殺の憂き目など見た日には、熊が気の毒で仕方がない。登山口に下山すると、パトカーが2台待機し、間もなく消防車、救急車もやって来た。

 学校でも日々行われている過剰サービス、過剰対策と同じである。それが結果として悪い効果を生んだとしても、何かをしていることで、本人は頑張ったという充足感と、言い訳の材料を手に入れたような気分になり、世間もなんとなく納得する。そこには、本来どうあるべきなのかという哲学が欠けている、と私には見える。それがないから、場当たり的で過剰な対策が増えるばかりなのである。