日銀、追加緩和の愚



 先週の金曜日に、日銀は追加の金融緩和策を決定した。資金供給量を10〜20兆円増やすという。かつても書いたとおり(例えば→こちら)、私はこれだけ物があふれた世の中で、消費が増え、構造的に景気がよくなるなんてあり得ないと思っている。そもそも、見たところ、景気がよくなるというのは、より多くの石油を燃やすことでしかないのだから、二酸化炭素問題がますます切迫して危機的な今、私は景気などよくすべきでないと思っているので、アベノミクスなんて端から信じていない。今回の追加緩和にしても、アベノミクスがなかなか思ったほどの効果をもたらさない上、大臣の引責辞任といったマイナスの出来事もあり、政権にやや陰りが見えてきたことから、見せかけの好況感を演出し、自分たちの立場を安泰にしようと悪あがきをしているようにしか見えない(日銀は政府から独立している?そんなこと誰も信じていないだろう)。

 そもそも、なぜ2%のインフレを目標として設定しなければならなかったのかと言えば、決して景気の回復といった話ではなく、国が膨大な借金を抱え込んでいるからであろう。デフレは借金の負担を大きくする。日本の場合、少子化とデフレで二重に負担は大きくなる。そもそも天文学的数字の借金をなぜ抱え込んでしまったかというと、借金をしてでも経済対策を施せば、景気が上向きとなって国の収入が増え、借金は返せると考えて借金をし、その思惑が外れて借金が雪だるま式に増えたということだ、と私は理解している。繰り返された借金と同じことが、追加緩和でも行われそうだ。借金は、生活を切り詰めて返すしかないものなのだ。楽に返すために策を弄すれば、その策は自ずから姑息なものになる。間違ったことは、やればやるほど、行き詰まった時のダメージが大きいし、ダメージが大きくなればなるほど、権力者というのは自分たちの失敗を棚に上げて危機感をあおり立て、更に大きな悪を上塗りする可能性が高い。恐ろしいことである。

 ところで、今回の金融政策決定会合で、9人の政策委員のうち、4人が反対したということだが、私が注目したのは、その内訳である。賛成した5人は日銀総裁、日銀理事、そして3名の大学教授、反対した4人は、東電取締役、金融会社社長、そして2人の証券会社所属エコノミストである。これほどはっきりと性質が分かれるのは驚きだ。もう少し簡単に言うと、賛成したのは日銀関係者と大学教授、反対したのは民間の専門家だ。逆なら分かる。民間人が景気浮揚を渇望して見境なく賛成し、学識経験者が冷静にそれを押し止める、という構図だ。だが、今回は逆である。このことは、今回の追加緩和が、ある種の机上の空論であって、現場を知る人間たちは危険を嗅ぎつけていることを意味しはしないだろうか?

  もう一度書くが、現在の豊かさ、景気の良さというのは、石油を燃やすということとイコールなのだ。個々人毎に多少の違いはあるにしても、今の日本人の生活に、不足など存在しない。景気の浮揚を目指すことは、必要性のない消費かマネーゲームを促すことでしかない。それがいかにバカげたことであるか。

 昨日は、国連がIPCC気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告書を公表した。それによれば、人間がこのままのペースで二酸化炭素の排出を続ければ、地球上の二酸化炭素の量は、人間の生存のための許容量の上限に、あと30年で到達してしまう。人間がそれに対して危機感を持ち、人類の生存を守るために、大きな犠牲を払ってでも二酸化炭素の排出を抑えようという話になる可能性など、私は微塵も感じない。この点に関しては、日本だけに限ったことでもないのだが、「金が全て」の現政権が、やはり一定の支持を得ていることなど考えるにつけ、最後の責任はみんなで取るしかないのだな、と思う。