新聞作りは奇跡だ・続・・・河北新報印刷見学会



 先週金曜日に、河北新報本社の見学に行った話を書いた時(→こちら)、次は印刷所だ、という予告をしていた。今日はその新聞印刷所の見学会であった。地方紙の雄・河北新報社は、仙台市の北郊外、泉区明通という所にある河北新報印刷という会社(印刷工場)で新聞を印刷している。新聞社内の教育プロジェクト事務局が主催して、年に3〜4回行っている「かほくNIE工房」の第30回を記念する企画として、そこを見せてくれることになったのである。

 13時に開会。最初に、会議室で新聞制作の過程と会社内を紹介するビデオを見せてもらい、その後、見学に移る。完成して12年ということだが、広々ときれいで快適な大工場である。一般的な見学ルートで、3階から1台25億円の巨大な印刷機東京機械製作所製)が4台並ぶ工場内の全景を眺めながら説明を受けた後、いよいよ、見学ルートを外れて、直接工場内を歩きながら間近にいろいろな物を見、説明を聞くことになった。教育プロジェクトの担当者ではなく、工場の技術者が案内してくれる。印刷フロアに入ったとたん、新聞の紙とインクの濃厚なにおいを感じる。私にとっては、なんだか心落ち着く魅力的なにおいだ。

 夕刊印刷の時間に合わせて会が設定されただけのことはあって、ちょうど、私たちが歩く時間に、夕刊のデータが本社から送られてきたので、「刷版(さっぱん)」というオフセット印刷用のアルミの版が作られる場面にも立ち合わせてもらい、私たちが巨大な輪転機の下(2階)に行った時に、目の前でその刷版の取り付けが行われ、間もなく印刷が始まった。刷り上がり始めて30部目くらいの夕刊をお土産にいただいた。輪転機の底(1階)に下りると、重さ1.3tとかいうロールから輪転機に給紙されていく様子を見ることが出来る。給紙は完全に自動だ。ロール紙1本に巻かれている紙の長さは19?。8ページまでだと7万部が印刷できる。だから、夕刊印刷に使うロールは2本。輪転機を止めずに、紙がなくなりそうになったら、古いロールの紙に新しいロールの紙を接続する。これも自動で行われるのだが、夕刊印刷の途中で1回しか行われない、高速で流れる紙を一瞬にして繋ぐ場面も、幸いにして間近で見ることが出来た。

 なにしろ、ページの少ない夕刊の場合、運転スピードを最速にすると、印刷から折りまでを毎秒41部のペースで行ってしまうという驚異の高性能輪転機である。1時間あたりでなら15万部(朝刊は23部/秒、8.5万部/時)だ。通常は最高速で運転したりはしないそうだが、仙台市とその近郊に配達される夕刊数万部を、わずか40分ほどで印刷してしまう。早かろう悪かろうなどということはない。実に美しいカラー印刷である。また、印刷だけではない。折って販売店ごとの部数に仕分けをし、ビニールでくるんでひもで縛り、ベルトコンベアーで行き先別のトラックに積み込む所まで、正に流れるように作業が進んでいく。これだけのことをするのに、働いている人は15人ほどに過ぎない(朝刊印刷時は、輪転機が3台動くので、3倍の人数になる)。

 印刷機だけではなく、地下の免震構造の部分まで案内してもらい、いろいろな話を聞いたが、とにかく「技術」の偉大さにただただ驚き、感動しながら話を聞いていた。ただ、理屈は理解できるが、なぜそんなことが実際に出来るのか実感としては分からない、という話も多かった。ともかく、ワクワクしながら工場内をウロウロしていた、あっという間の1時間半だった。会議室に戻ってから、東日本大震災の時に、この工場がどうなったかというような話を聞いた。何しろ河北新報は、ありとあらゆる手段を使って、3月12日の朝刊配達を実現させたのである。この話も面白かった(気が向いたらそのうち書くかも)。

 ところが、実は、今日の見学会に参加したのはなんと私を入れて4名。高校教員は私だけで、他は小学校の教員だった。先週の本社見学会も、参加者は5名だけだった。私にとって、野球や映画を見に行くより、買い物や山登りに行くより、こんな工場を見学している方がよほど面白いことで、案内チラシを見た瞬間に最優先のスケジュールとしたのだが、例によって世の中の人の感覚というのは違うのだな。人数が少ないおかげで、いろいろな所に入れてもらえるし、説明を聞いたり質問したりするのにも好都合ではあるが、これが、教員の新聞に対する意識や知的好奇心のレベルを反映しているとすれば、それは寂しいことだな、と思う。