泥油温泉または人間の温かさ



 週末は、我がワンゲル部の諸君と山へ行っていた。季節柄、下手をすると吹雪もあり得る、生徒の装備は貧弱だ、という訳で、泥湯温泉(秋田県湯沢市)の某旅館の自炊部屋を、食事はおろか、布団もいらないからと値切り倒し、一人1500円で借りて泊った。何しろ鄙びた小さな温泉の、古い旅館の自炊部屋である。部屋にテレビとてなく、天井は低く、床は斜めに傾いていて、声は筒抜け。こうなると、隣室者とよそよそしく知らん顔もしていられない。

 隣室者は80歳に近い二組の老夫婦だった。夫同士が戦友(!)なのだそうだ。富山と栃木から来て、一週間滞在するという。私達とすぐにうち解けて、いつの間にか、一晩限りのおじいちゃん・おばあちゃんと孫の関係になり、最後は皆で記念撮影。

 電車で隣に座った人と会話することもほとんどあり得ない現今のこと、なんだか妙に懐かしいような、ほのぼのとした気分に浸ることが出来て楽しかった。老夫婦の笑顔も本当に温かかった。こういうことがあると、「人間」っていいなあ、と思う。

 一方、例のニューヨークの事件も、今、アフガニスタンを始めとする中東で起こっている様々な事件も、人間が起こしていること。それを思うと、私には、この世で一番美しいのも醜いのも「人間」であると思われる。