久しぶりの中国



 12月29日から1月3日まで、中国へ行っていた。10年ぶりとはいっても、前回はチベットというやや特殊な場所だったので、むしろ15年ぶりと言った方がよい。なぜ今年、時間の取りにくいところで無理をして、私としては非常に珍しい、たった6日間の旅行をしたかというと、理由(目的)は主に二つである。

1:テレビを始めとする様々なメディアで、上海や北京の風景を見、それが私の知っている上海や北京とあまりにも違う街であるため、毎年二桁の成長率で成長を続けているという中国の変化を目の当たりにしてみたいという気持ちを、この2〜3年強く持つようになっていた。

その実行のきっかけとして、非常に強力だったのは、

2:うちの娘に、あと2週間で料金が発生する、ということに気付いたこと、だった(国内旅行は4〜6才まではほとんどタダ、それ以降も小学校卒業までは大人の半額だが、国際線は2才で大人料金の約9割という料金が必要となる。もっとも、1才児でも一応タダではなく、大人の15%位の料金はかかる。このことを、全く偶然知ってしまったのだ)。

 そして、頑張れば1週間くらいの時間は作れそうだという見通しを持った12月10日過ぎに、切符を探し始め、寒くなくて、それなりに面白そうで、年末年始料金が高くない切符として見つけたのが広州便だった。広州へ飛び、香港、できればマカオまで足を伸ばすことにした。ここで発生した第3の理由が、

3:香港・マカオが中国に返還されたことによる一国二制度の運用を見る、である。

 家族同伴では、さすがに昔のような無謀な旅行もしにくく、広州二泊と香港三泊のホテルだけは予約した。他はフリー。ちなみに私は、香港がまだ英国領だった1987年に、広州も香港も訪ねたことがある。3番目の目的を果たすのにはいいだろう。

【行程】

 12月29日 成田→広州 環市東路付近散策

 12月30日 黄埔軍官学校 北京路 沙面観光

 12月31日 市場見物 広州→(バス)→香港 スターフェリーで海峡見物

 1月1日   市内見物(トラムで春秧街、ハッピーバレー、飲茶の後、九龍へ、夜はビクトリア山)

 1月2日   マカオ観光

 1月3日   香港→(鉄道)→広州→成田

【印象】

 香港には以前も高層建築が林立していたので、あまり変ったという印象を持たなかったが、広州はドラマチックに変った。30階、40階建てのビルは当たり前。高速道路が走り、自転車が激減し、雑然とした庶民の市場が縮小し、スタバ、マック、7−11、KFC等々世界的なチェーン店が街中に店を構え、その密度は日本よりも高いくらいだった。世界中の都市の例に漏れず、要は無国籍化しているのである。物価も非常に上がった。

 無国籍化と言えば、欧米や日本との比較だけでなく、中国国内レベルでも同様の現象が起きているのをはっきりと感じた。中国には、大雑把に言って北京語、上海語、福建語、広東語という4つの言語圏があるのだが、北京語をベースとする標準語(普通話)教育を中国政府は進めてきた。今回、広州で道行く人々の言葉に聞き耳を立てていると、少なくとも3分の2くらいは標準語、北京語だったように思う。これが標準語教育の成果なのか、おびただしい流入人口のためなのかは分からない。ただ、間違いないのは、ここは「広州」ではなく「中国の大都市」になってしまった、ということである。

 広州から香港へ行く途中の、あの美しい田園風景はどこへ消えたのだろうか?多少のバナナ畑はかろうじて残っていたが、あとは「開発」による、赤茶けた地肌と、ビル、工場、高速道路、飛行場といった景色ばかりだった。

 日本でもよく似たものだけど、これで中国人は幸せなのかなぁ?幸せだとすると、文明とは恐ろしいものだなぁ、と思わされた。

 香港がイギリスから中国に返還された時、そのあまりにも異なる社会状況から、香港を香港として温存するために、一国二制度がスタートした(旧ポルトガルマカオも同様なので、実際には一国三制度である。私はかつてのマカオには行ったことがない)。しかし、最近は中国から香港への観光客が増えたとか、香港ドルと中国元のレートが限りなく1:1に近づいたとかの報道に接する機会が増えたので、香港市民の抵抗を和らげるために一国二制度だから大丈夫とか言っておいて、その後何となくうやむやになってきたのかと思っていた。しかし、驚いたことに、国境は何の変化もなく存在し、出入国審査は非常に真面目に行われ、通貨も両替が必要で、少なくとも私の目には、何一つ変化は認められなかった。これは、日帰りで往復をしたマカオも同様である。台湾をうまく吸収していくためのオトリ的制度だとかいう穿った見方も聞いたことはあったが、真偽は知らない。とにかく、その運用の厳格さには驚いたことであった。

 旅行の理由として挙げなかったが、幼い子供を連れて海外旅行すると、あちらこちらでよくしてもらえて楽しい、という話を聞いたことがあったので、その点も楽しみにしていた。

 実際やってみると、自分の子供そのものは手間がかかって大変(いつもと違う雰囲気を察知し、頑として自力歩行しない)だったが、確かに人の笑顔に出会える場面は多かった。もっとも、日本国内の旅行と違うのかと言えば、別に違わないという気もする。子供と接することで得られる優しい気持ちとか、子供を可愛いと思う気持ちなどは本当に世界共通だと思うし、豊かな感情だと思う。子供を連れていたおかげで、私自身の行動の自由は全くなく、今まで生徒を楽しませるのに貢献してきた面白グッズや珍談・奇談を集めることは出来なかったが、これはこれで貴重な体験であった。

 12kgの荷物(子供)を抱えながら目一杯動いたので、すっかりくたびれてしまった。やはり、従来私がやってきたような個人旅行は、6日間とかいうスケールでやろうとしてはいけない。最低で二週間だと思う。特に最終日は、朝香港を出て、列車で国境(?)を越え、広州14時発の国際線に乗らなければいけないということで、精神的なプレッシャーがきつかった。心に余裕があってこそ、旅行は楽しく、周囲も見えてくる。無理は禁物だと思った。