「鉄腕」逝く



(5月22日毎日新聞野口二郎氏の訃報引用)

 私は毎日、新聞を手に取ると、訃報から読むことにしている。生きている人間は常に変化し続けているので評価のしようがない。その人物がどのような人間であり、どのような仕事を遺したのかということが評価できるようになるのは、死んで棺桶のふたを閉めた時からだ、ということである。訃報を前にして、一人の人間の生涯と業績、そしてその時代に思いを馳せるのは、なかなかに感動的で興味深い作業であると思う。

 先週目にした訃報で、私にとって最も印象的だったのは野口二郎氏についてのものであった。現在の私たちにとっては、全く想像の限界を遙かに超えるタフネスぶりである。上の小さな記事にある他にも、プロ野球で37回連続投球(延長28回を一人で投げ抜き、翌日も完投勝利)とか、マウンドに立っていない時は、内野も外野も守り、しかも打順は4番だったとかいった話の載っている新聞もあった。

 昔の人は強かったんだなぁ、と思う。もっとも、当時彼は「鉄腕」と呼ばれていたらしいから、当時の人にとっても驚異だったのは確かだが、今ではやはり現れ得ないに違いない。日頃、山など歩いていても、終戦前後までに生まれた人は強いなぁ、と思うことが多い。おそらくは経済的成長と共に、私たちの生活は安逸となり、だんだんとそれに慣れて、自分たちをひ弱にしてしまったのだろうと思う。そしてこのことは、肉体的な強さだけでなく、精神についても同じことが言えるのだろう。「文明は人間を堕落させる。」自分を怠けさせてはいかんなぁ、と思う。