自分と向き合い、言い訳しない



 諸君がどうかは知らないが、私は最近、予備校関係者の進路講演会はややうんざり気味だ。受験勉強なんて、本人が希望してやることだし、やるべきことは至って単純で、やり方も分からないなどということはないにもかかわらず、いざ机に向かうとやる気にならないということが問題なのであって、受験業界の人が、これでもかこれでもかとデータを示すことが何になるのか、という思いがあるからだ。というわけで、この日も重い気分で5階へ向かったのだが、やはり話というのは聞いてみないと分からないものである。久々に退屈を感じず、熱心に耳を傾けてしまった。

 最初のうちは、講師の方を「頭のいい人だなぁ」と感心していたのだが、やがて、面白い理由はそれだけではないことに気付いた。彼女は「自分の言葉で語っている」のである。つまり、彼女は、人間の生き方についての明確な意見・姿勢を持っていて、受験といえども、それを実現させるための一つの場、もしくはそのような生き方を人生全体でしていくための一つの練習の場だ、と考えていて、それが徹底されているために、それが自分の考え方と合う合わないを抜きにして、非常な爽快感と説得力とを感じたのだと思う。そんな彼女の主張の中心=徹底的に繰り返されたことが「自分と向き合い、言い訳をしない」であった。名言である。

 ところで、受験を乗り切るために、それは非常に大切な姿勢であるとは私も思うが、そもそも、そうして受験を乗り切り、「いい大学」に入ることに何の意味があるのか。彼女の話から私は、それが、諸君が幸せな人生を生きて行くためになるから、と感じた。しかし、それには異論有り、だ。いささか危うい気がする。勉強は、諸君が競争の中で他者を蹴落とし、自分だけがいい思いをするためにするものではない。そのような勉強は三流以下の人間のすることだと思う。自分が学ぶことで、人をどれだけ幸せに出来るか、という意識は必要だ。だが、それを出来るのは、徹底的に「自分と向き合い、言い訳をしない」で壁を乗り越える人でこそあるという気もする。C先生がよく言っていることだけど、「強い人ほど他者に優しい」のである。