金色の峰と魚



 金曜日はうっとおしい曇り空で、肌寒い一日だった。職場が近く、仕事がさほど忙しくないのと、日が長いのとのおかげで、この日もまた、まだ明るいうちに家に着いた。夕食の準備には一寸早いかなどと思いながら、外の景色をぼんやりと眺めていたところ、西の雲が割れたらしく、突如として金色の西日が一筋、私が見ていた南の方に射してきた。そこにあったのは市立病院である。その時、他の所は暗く沈んでいるのに、市立病院の壁だけが少し赤みを帯びた金色に輝いた。こうなると、なぜか、その建物ばかりが非常に大きく感じられるものである。圧倒的な存在感を持つに至ったコンクリートの塊は、私の目にはヒマラヤの高峰のように見えた。わずか20秒か30秒のことだったと思うが、私はほとんど畏敬にも似た気持ちでそれを見ていた。

 土曜日の午前中、家族が外出して、私は一人になった。自宅の二階で、やはりぼんやりと海を見ていたところ、漁港の方からキラキラと輝く物体が沖の方へとゆっくり動き始めた。私の目には、金色の大きな魚が背中を水面に出して、悠々と泳いで行くように見えた。ほとんど雲一つ無い快晴ではあったが、日光を反射しているというには、あまりにもそこだけが輝きすぎている。私は慌てて一階に駈け降り、双眼鏡を手に取った。見えたのは、船側の集魚灯をすべてつけて、港を出て行く船であった。なぜ、明るい午前中に集魚灯をつけて出港していったのかは分からない。私は、双眼鏡でその正体を知ってしまったことを少し後悔した。

先週末、私の印象に残った二つの風景である。ただそれだけ・・・。