美しき北上川



 今日は、午前中、少々時間が取りやすかったので、マラソンのトレーニングコースとして私の一番好きな北上川の土手を走りに行った。自宅から東進して北上川に突き当たり、そこから川沿いに北上、石巻大橋のたもとをくぐって間もなく土手に上がり、石井閘門まで行って折り返してくるというものだ。住吉公園の辺りから、200mおきに河口を起点とする距離が掲示してあって、それによれば石井閘門は、河口から8km強の所にある。我が家から走ると、河口から走ったのとほぼ同じになるので、往復すると約16kmといったところだろう。今日は、ごく普通のペースで1時間10分かかった。途中、二カ所だけ車道らしきものを横切るが、他には、信号も交差点もなく、土手に上ってからは車さえ通らない快適な道である。

 北上川という川は、広い河原の真ん中を水がちょろちょろ流れているような、日本にありがちの偽の大河ではなく、川幅いっぱいに水をたたえ、滔々と流れる正真正銘の大河である。石巻が河口だからというわけではない。遡っても遡っても、もちろん川幅は少しずつ狭くはなるものの、川幅いっぱいに水をたたえ、悠然と流れる様は変らない。特に、登米や佐沼の辺りなど、日本離れした風景だな、と思う。その北上川の、悠然、広々とした風景を見ながら走るのは快適である。

 市内の高校生がボートやカヌーの練習をしている。エンジンの付いていない船はアメンボのようだ。のんびりと歩いている多くのお年寄りを追い越し、またすれ違う。イヌの散歩という人も多い。1ヶ月後に市のマラソン大会があるからか、親子でジョギングという姿もよく見かける。釣り人もいる。野鳥もいる。今日などは、鴨が道端に沢山休んでいた。私が彼らから僅か数十センチの所を走って通り過ぎても、全く気にする風はない。そして、時に魚がはねる。

 ところで、私が走っているのは、正確に言うと「旧北上川」の土手である。有名な話だが、北上川には明治末から昭和初期に、20年余りをかけて治水放水路として開かれた「新北上川」というものもある。登米市で本流から分岐して追波湾(おっぱわん)に注ぐものであるが、これまた滔々たる大河である上、河口付近には葦原が発達し、「日本の音風景百選」というのに選ばれて有名になった。葦のざわめく音を聞かなくても、特に夕暮れ時など十分に美しい。後背地も含め、「豊葦原の瑞穂の国」我が日本の田舎は正にこうあるべきだといった、観念の中で理想化された「郷愁」がうずくような風景である。

北上川のこのような風格があればこそ、「やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに」(啄木)という、北上川に寄り掛かるような歌も生まれ得たのだと思う。ここを走った休日は、一日中気分がいい。