名古屋めし



 名古屋に行くと、決まって誰かと飲みに行ったり食べに行ったりすることになる。今回もそうだったのだが、すると必ず、「何が食べたいか?」と同時に、「仙台や石巻で美味いものとは何か?」という質問を受ける。う〜ん、これは難問。たいした物が思い浮かばないのである。あるとすれば、今はなかなか手に入らなくなっているが、海で取れたもの(特に牡蠣、他に戻りガツオ、サンマ、マグロ、サバなど)は美味いような気がする。一方、料理でもお菓子でも、ふと頭に浮かんでは、名古屋の食べ物が同時に思い浮かび、宮城の物があっという間に色あせて消えていく。行き着くところ、人間が手を加えていない(切る程度は必要だが、加熱していない)ものには、宮城にも多少の味わうべきものがあるにしても、人間が手を加えたものについては、日本酒以外に太刀打ちできるものはない、というのが私の結論である。私は、以前から大阪・京都の食べ物についてはそのように語っていたのだが(このブログ2001年12月10日の記事参照)、今年3回も名古屋を訪ねるに至って、名古屋もそこに含まれることが重々分かった。日本の文化はやはり関西で成熟したのであり、それは、間違いなく今に尾を引いている。名古屋などは、平安時代に文化と言うほどのものがあったのかどうか怪しいものだが、何しろ徳川家と因縁浅からぬ関係であることを反映してか、今、石巻から眺めてみると、大阪・京都と同じグループに入るのである。

 私は、親父が名古屋文化圏の一角・伊勢の出身だし、私が大学に入った後、一時両親が名古屋市郊外(西春)に住んでいたこともあったりなどして、古くから名古屋文化には親近感を持っていた。しかし、記憶もおぼろげで、今年は非常に新鮮な気分で名古屋で箸を動かしている。

 さて、名古屋の食べ物を「名古屋めし」と言うそうであるが、おそらく、私が最も好きなのは、「味噌煮込みうどん(きしめん含む)」である。7月に大量に買って持ち帰ったものが、「味噌煮込みうどん」のシーズンとは決して言えない暑い季節であるにもかかわらず、1ヶ月くらいで底をついたので、また今回、大量に仕入れて帰った。次に名古屋へ行くのはわずか1ヶ月後の11月2日なので、それまでは安泰であろう。

 そもそも、私は「八丁味噌」が好きなのだろうと思う。今回の震災直後、宮水の避難所に大量に運び込まれた支援物資の中に、相当な量の「八丁味噌」が含まれていた。職員の多くはその価値を知らず、たまたま支援物資の中に仙台味噌も含まれていたこともあって、「八丁味噌」ははなはだ不人気であった。これ幸いと、私がそのほとんどを持ち帰ったこと言うまでもない。これで私は、夏休み前まで、「八丁味噌」の味噌汁に不自由しなかったのである。

 となると、次は「味噌カツ」であるが、残念ながら、これはソースに比べて圧倒的に美味い、とは思わない。それもうまい、これもうまい、である。今回、初めて「矢場とん」なる有名店で「味噌カツ丼」を賞味する機会に恵まれたが、「感動」したとまではいかなかった。

 「ひつまぶし」も美味い。酒の肴になる、数少ない「ご飯」であると思う。日本酒にもビールにも合う。私は、「ひつまぶし」という名前が異様なものに思えていたのだが、7月に名古屋を訪ねた時に、愛知ボラセンのI君から、「おひつの中でご飯に鰻をまぶすからだ」と説明されて納得した。私は「ひつま・ぶし」だと思っていたのだが、なるほど、「ひつ・まぶし」だったのだ。私のような田舎者には、文化の風薫る命名と感じられる。食材が食材だけに、高級感があって、少し敷居が高い。

 「天むす」は不思議な食べ物である。おにぎりにエビ天を突っ込むという発想が面白い。何でも、名古屋城金のしゃちほこにちなんだ商品の一つとして登場したらしいが(真偽未確認)、こうすれば美味いという確信の下に開発されたのではなく、作ってみたら美味かった、というシロモノに思える。5月に名古屋を訪ね、名古屋を発つ際に、Y女史が差し入れてくれた「地雷也」の「天むす」が絶品だったので、今回、中部国際空港で買って機内に持ち込んで食べたが、その時の感動は蘇ってこなかった。夕刻とあって、作ってから時間が経ちすぎていたのだろう。「天むす」とは、「天ぷらむすび」の略なのであろうが、名古屋では「おにぎり」ではなく「おむすび」が一般的なのだろうか?「天にぎ」では話にならない。私には、「天むす」が、なかなかしゃれた言語感覚に基づく命名に思われる。

 お菓子は種類がありすぎて、よく分からない。昔から「ういろう」は好きだった。私の両親は「青柳」を偏愛していたが、日持ちのことを考えなければ「とらや」、それ以外では「青柳」でも「大須」でも、大差はないと私には思える。先日、H先生に「雀踊り」という会社のものが美味いと入れ知恵され、早速買って帰ったが、特別なものではなかった。

 妻には、土産として必ず「赤福」を所望される。もちろんこれは名古屋名菓ではない。名古屋を訪ねた時には絶対に買って帰りたくなるようなお菓子については、今後、更に捜索しようと思っているところである。