スペイン大好き!・・・カルメン幻想曲とボレロ



 昨日、「副産物」という書き方をしたが、NIEの大会があったおかげで、夜、仙台フィル定期演奏会に行けた。この日のテーマは「スペイン」で、シャブリエの狂詩曲「スペイン」、サラサーテの「カルメン幻想曲」、マスネの歌劇「ル・シッド」のバレエ組曲ラヴェルの「道化師の朝の歌」、ドビュッシーの「イベリア」、そしてラヴェルの「ボレロ」が演奏された。ラテン大好きの私にとって、たいへん魅力的なプログラムだったのだが、学校を抜け出して仙台に行くのも大変なので、あきらめていたのである。もっとも、このことに気付くのが遅かったので、2日前に電話をした時には、最前列しか空いていなかった。最前列で音楽を聴くのは、多分わずか3回目である。せっかくの大きな編成なのに、楽器の全てが見えないのは残念だったが、常任指揮者になってから7年目となったパスカル・ヴェロ氏を間近に見たこともなかったし、これはこれで新鮮な感じで面白かった。

 演奏の中で本当に素晴らしいと思ったのは、仙台フィルの若きコンサートマスター・西本幸弘氏が独奏を務めた「カルメン幻想曲」である。技巧的にも難しい曲らしいが、プロのヴァイオリニストがその点でぼろを出すとはあまり思えない。むしろ、この曲の難しさは、原曲(ビゼーの歌劇「カルメン」)にも含まれる、スペインというよりはロマ(ジプシー)的な泥臭さをいかに表現するかだと思う。技巧的に上手だと、ただきれいなだけの演奏になりがちで、それではまったく面白くない。その点、昨夜の演奏は、上手な上に泥臭さをよく表現できていた。録音も含めて、私が聴いた中で最上の「カルメン幻想曲」だ。西本幸弘という人個人の演奏を聴いたのは初めてだったが、この人ならリサイタルにでも行ってみたいと思った。

 ラヴェルの「ボレロ」は、最後にやれば絶対に盛り上がる曲である。冒頭と最後の音量の差が大きすぎて、録音で聴くのに最も向かない曲だということもあって、ライブの最後にはうってつけだ。

 私は、アイデアというものの偉大さを思う。ひたすら同じリズムとメロディーで、転調さえ無く、音を少しずつ大きくしていくだけで、15分間聴衆を引き付け、興奮を作り出していくというのは驚くべきことである。同じアイデアで2曲目を作ってもダメだろう。その1回性にも価値がある。

 と思っていたのは今までの話。もちろんそれはそれで正しいが、今回、改めて楽譜を見直し、オーケストラを目の前で見ていて、そう言い切ってしまうのは少し乱暴だぞ、と思うようになった。例えば、冒頭は小太鼓とビオラ・チェロのピッツィカート(指で弾く)で始まるが、ビオラは183小節でアルコ(弓で弾く)に変わる。音を少しずつ大きくすることだけがこの曲の命だとすれば、ピッツィカートよりもアルコの方が大きな音を出せるわけだから、後戻りはナシだ。しかし、201小節で、第2ヴァイオリンがアルコに変わったところで、ビオラはピッツィカートに戻る。その第2ヴァイオリンも219小節でピッツィカートに戻るが、その時、第1ヴァイオリンはピッツィカートでリズムを刻むのを止め、2小節休んでから、アルコで弦楽器として初めてテーマを演奏し始め、239小節からは第2ヴァイオリンが合流する。その後もビオラは269小節までリズムを刻んだ後、アルコでテーマを演奏したかと思うと、291小節からはまたもやピッツィカート、309小節からアルコでボレロ(もどき)のリズムを激しく刻みながら、ようやく曲を終える(340小節)。

 ビオラ奏者からわずか2mくらいのところで見ていたので、ビオラを中心に見てきたが、他の楽器も、入れ替わり立ち替わりリズムを刻んだりテーマを演奏したり忙しい。リズムを刻むと言っても、4分音符を弾ませているだけの所もあれば、小太鼓と一緒にボレロのリズムを刻んでいる所もある。意外なことに、アルペジオ(分散和音)もありだ。登場し、重ねられる楽器が変わるというだけではない。だからこそ、一見少しずつ音が大きくなっていくだけであるようでいながら、響きも変化を続けていて、聴いている側は飽きることがないのだ。私はラヴェルの綿密周到な配慮に、改めて舌を巻いた。確かに、アイデア自体も十分に面白いものだが、一流となれば、それを更に超えた工夫があるのだ。

 スペインをテーマにした曲、スペイン人やスペイン系の人の曲には、名曲がまだまだあるので、ぜひ「第2夜」をやって欲しいものだと思った。