新寺小路のお寺



 私が宮水に来る前勤務していた仙台一高の住所は、元茶畑であるが、おそらく元茶畑という住所にあるのは仙台一高だけである。そのため、住所によって一高の場所を説明するのは難しい。そこで、一高の北を東西に走る道路の名前を借り、「連坊小路にある」と説明することになる。連坊小路の北、400m程の所に、平行して新寺小路という道路が走っている。名前から分かるとおり、お寺が非常に多い(特に新寺小路)。算えたことはないが、20や30はある(残っている)のではないか、と思う。散策するとなかなか楽しい。仙台一高勤務の時代は、電車の時間を気にしながら、ごく短時間で、あちらこちらに寄り道したものである。

 私のお気に入りベスト3は、正楽寺、善導寺、松音寺である。どうしても、伽藍が鉄筋のお寺には心引かれない。いくら庭がこぎれいでもだめである。

 一昨日、山に付いて行くにあたり、集合が仙台一高だった。少し早く仙台駅に着いてしまったので、何をしようかなと考え、そうだ、久しぶりに新寺小路の正楽寺あたりを訪ねてみよう、と思った。

 裏口のようなところから入る。えっ?!こんなに苔のきれいなお寺だったかな、と衝撃を受けた。朝日に照らされた苔は、本当に明るく柔らかい緑色だった。月並みな形容をすれば、「輝く緑色のビロードのような」といったところだろうか。自分に詩人の才能が無いのが恨めしい。京都のお寺にも決して劣るものではない。18世紀の前半に建てられたという山門や本堂(ともに仙台市登録有形文化財)も、相変わらずの風情だった。

 隣のような所に善導寺がある。このお寺の魅力は、小さいながらも密度の高い、うっそうとした森である。伊達家ゆかりの格の高いお寺らしい。中に入ると長くなるので、今回は省略。

 松音寺は新寺小路と連坊小路の間にある。仙台城下の曹洞宗四大寺で、山門は、やはり、仙台市登録有形文化財になっている。表の道路から山門へのアプローチは、曲線になっている珍しいもので、なかなかの風情だ。本堂はこぢんまりしているが、とてもまとまった形のいい建物だ。このお寺も、今まで何度となく訪ねている。だが、正楽寺同様、今回は苔の美しさに驚かされた。このお寺が残念なのは、お寺を囲む白壁が、明らかに漆喰ではなく、白ペンキだということである。ペンキの白は軽薄だ。古い漆喰のアイボリーがかった風合いがあると、このお寺の魅力は格段に大きくなるのに、と思う。

 待ち合わせの時間を潰すわずか10分か15分の寄り道であったが、自分が仙台の街の中にいることを忘れてしまいそうになった。身近な所に、さりげなく落ち着いたいい場所があるものだ、と感心する。また、時間のある時に訪ねてみよう。今度は、阿弥陀寺か東秀院あたりだな。