海の上の常識?非常識?

 お久しぶりです。そして再び多忙につき、書かない日が増えると思います。今日はとりあえず・・・。

 先日、全日本海員組合主催の懇談会に出席したということは、ちらりと書いた。懇談会の中身には触れていない。実はその時、私は業界の方々に向かってちょっとした苦言を呈した。公表すれば業界の方々にとっては不名誉となりかねないので、その時は書かなかったわけだが、その後、いろいろな方々の反応を伺っていて、さほど問題ではないのではないか?と思うようになり、およその内容を書いておこうという気になった。社会問題として目新しい、という方もいるであろう。


「船舶や漁業会社の方々から、「誰か来てくれる生徒いないかな?」と声をかけていただくことが頻繁にあるのですが、なぜか求人票は届きません。現在、宮水に届いた陸上職の求人票は750を超えていますが、海上職の求人票は50にもなりません。しかし、求人票をいただいていない会社から、「うちに来てくれる生徒まだ見つかんない?」と電話が来ます。なんだか変だぞ、と思います。
 また、高卒求人については、7月1日から求人票の公開開始、9月5日から出願書類受け付け、9月16日から就職試験解禁、というルールもあります。しかし、「8月31日応募締め切り」というような求人票が届いて驚きます。ルールに合わない求人票は、すべて海上職のものです。やっぱり、海の上はなんだか変だぞ・・・と思います。
 いくら電話で「採用したい」と言われても、それを生徒に伝えるのは容易ではありません。まして、職場環境や労働条件も含めての伝言ゲームは不可能です。一方、求人票は全ての教室にコピーを配っていますし、それを見ればそれらは一目瞭然です。生徒も担任も、求人票を前にして会社を探します。紙がなければ何もないのと同じ、と思ってください。
 先日、本校で船舶就職者向けのガイダンスを行いました。来てくださった会社の方々と終了後に懇談をした際、求人票を出してください、とお願いしたところ、「学校からも会社に来てくださいよ」と言われてしまいました。これはまったく非現実的です。会社が、全ての海員養成機関に求人票を送っても、60通の郵便で済みますが、船会社の数は数千に及びます。何かの手がかりがなければ、学校からアプローチすることなど不可能なのです。
 以上、求人票がなければ採用は始まらないということ、高卒就職には日程上のルールがあるということをぜひご理解いただきたいと思います。」


 会では言わなかったが、そもそも、8月何日締め切りなどという求人票がなぜおかしいかというと、日程上のルールを知らないというだけではない。求人票というのは、陸上職ならハローワーク海上職なら運輸局に事前に提出して、労働条件等が法令に反していないかのチェックを受け、ハンコをもらってから学校に届けるという仕組みになっているのだが、その手順を踏んでいない、ということでもあるのだ。陸上職の求人票が統一された様式になっているのに対し、海上職の求人票は、指定された統一様式があるにもかかわらず、それを使っている会社と使っていない会社は半々で、サイズさえバラバラだ。そんな求人票受け付けなければいいのに・・・というのは正論だが、まぁ、現場としてはそう言ってもいられない。海の上の常識は、私のような一般の陸上人には容易に計りがたい。
 幸い、「門外漢が生意気なことを言うな」とか、「学校はやっぱり上から目線だ」といったお叱りを受けることはなかった。むしろ、船会社の縁故に頼る旧弊な体質、今まで真剣に若者を採用しようと努力してこなかった怠慢、といったことを語ってくださる方が多かった。その場には40近い会社の社長や部課長が来ていたし、水産経済新聞の記者まで来ていて、8月16日の「水産経済新聞」第1面には、多少の記事を書いてくれたが、おかげで宮水にどどっと求人票が来た、ということもない。
 宮水には、今年、例年の倍に当たる約40名の船舶就職希望者がいる。いくら少ないとは言っても、50近い求人票が来ているならいいではないか、と思うかもしれないが、そうもいかない。船の種類やら航行範囲やら発着地やら、会社ごとにいろいろな違いがあって、どこでもいいとはなかなかいかないものなのである。こんなことをしているうちに、船舶就職希望者が、心変わりしなければいいのだけれど・・・。実際には人手不足のはずの船会社が、求人票を出さないために、みすみす若者を捕まえ損なう・・・日々そんな心配をしている自分が、少し人のいい阿呆に思えてくることもある。