タンカーはワンダーランド

 先日、静岡に行った話が大井川鉄道だけで終わってしまっていた。ぐだぐだと書く気はないが、その時のことも含めて、休筆期間中とその後の会社見学に関することを書き留めておこう。
 なぜ私が11月28日に静岡に行ったかというと、翌29日に神奈川県相模原市三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社(旧三菱重工相模原製作所)を見学させてもらえることになったからである。この予定が組めたために、静岡まで足を伸ばして、いくつかの水産会社をまわるという気になったのだ。
 三菱重工の工場は一度見てみたいと前々から思っていた。今年の6月に人事担当者が求人の件で水産高校に来た際、お願いしたところ、快くお引き受けいただいたので、その後、日程の調整をしながら、考査期間中にいよいよ敢行ということになったのである。
 11月28日は相模原駅前に泊まり、翌朝、三菱重工のバスで田名という所にある工場に行った。広大な敷地に、三つの工場と研究所と研修所が建つ巨大な施設である。
 9月にJAXAに行った時(→その時の話)、H2aロケットの一部をこの工場で作っていると聞いた(ような気がした)し、自衛隊の特殊車両(戦車など)も作っていると聞いていたので、機密だらけで見せてもらえない場所も多いかも知れない、と覚悟はして行った。戦車の組み立てをしている場所こそ、巨大な白いパーティションのようなもので囲われ、見ることはできなかったものの、その他の所については、2時間余りかけてかなり隈無く案内してもらった。しかし、噂に聞いたロケットは製作しておらず、大半は大型ディーゼルエンジン(船舶や発電機用)とターボで、さほど特別なものを作っている感じではない。なるほど、会社名を変えたわけだ。工場内は一切写真撮影禁止だったが、その必要性を理解することさえ出来なかったほどだ。ま、卒業生2名に会えて、その仕事ぶりを見させてもらったのはよかったし、良かれ悪しかれ、ものは見てみないと分からないのだから仕方がない。社員食堂でお昼までご馳走になったが、あるいは最も強く印象に残ったのは、相模原駅から工場に向かう途中で見た、高級マンションかと見紛うばかりの社宅であったかも知れない。就職するなら大企業、というのが分からなくもない。
 夏休み以降に訪ねた職場として、最も面白かったのはタンカーである。10月29日、松田海運という会社が運行している上寶丸(約3500トン)を訪ねた。場所は石巻工業港南浜埠頭。日本では、タンカーだけで内航と外航、大小を合わせて1500隻もの船が動いているが、部外者がその中に入る機会などそうそうあるものではない。今年、宮水から一人の生徒が徳島県の会社である松田海運に就職が決まり、そのタイミングで、船が石巻に入ったので、よかったら見に来ませんか?とお誘いをいただいた。便乗して生徒について行ったようなものである。
 プロペラを動かす主機、発電機、造水機といったあたりが機関室の3点セットである。水産高校で就職係をしているおかげで、これらは大型フェリーから漁船まで、いろいろな船で見るチャンスがあった。変わったところでは、日本海洋事業の新青丸のように、プロペラに直結された主機がなく、全て電気で動いている、つまり、造水機の他は発電機しかない、といった船もあった(→その時の話)。ところが、タンカーの機関室は、私のような素人が行くとワンダーランド!3点セットの奥に、まだまだ機関室が続いていて、油を出し入れするポンプ用のエンジンが油槽の数だけ(上寶丸の場合4)と、バラストタンクに海水を出し入れするポンプ用のエンジンがある。そして巨大なボイラー。もちろん、配管も複雑だ。
 なぜ巨大なボイラーが必要になるかというと、油を荷下ろしする時に、発注者から温度を指定されるからだそうだ。驚いたことに、その温度は55〜60度。会社によって違うらしい。『それゆけ水産高校』に書いたが、燃料にしても、船くらい大量の油を使うとなると、温度変化による油量の変化も大きいので、膨張係数を使い、15度の体積に換算して燃料を積み込むという作業が必要になる。体積の問題は、このような計算で解決だ。しかし、粘度の問題などがあるため、実際に温度管理をする必要がどうしても出てくるらしいが、タンカーの側では、注文主の要望に従うだけの話なので、なぜそんなに温度を上げることが必要かなどはまじめに考えたことがない、という風であった。
 タンカー内での生活を維持するために、発電機で常時どれくらいの油を燃やしているか、海上を走っている時にどれくらい油を食うかというのも、聞けば恐ろしいほどだが、それは輸送が必要である以上仕方がないと思う。だが、ものすごい量の油をわざわざ加熱するエネルギーというのは、どうしてもただの無駄に思える。いくら製油所や工場で、それによって作業効率が上がるとしても、である。なんとかならないのかな?
 いくら大きくなっても、構造としてはほとんど変わらないらしいが、一度、50万トンを超えるようなタンカーの実物を見てみたいものだ。まさかそれほど膨大な油を、温めたりしていないよなぁ?