進路指導部研修会・・・三つの会社を訪ねる



 昨日は、石巻市内の3つの工場を見学に行った。この1ヶ月くらいの間に、求人のことなどで話をした中から、これは見ておいた方がいいと思う会社をとりあえず三つ選び、夏休みを利用して「進路指導部(有志)研修会」を行うことにしたのである。立場を利用し、人の仕事の邪魔をしながら、自分たちで楽しんでいる、などと言ってはいけない。生徒の相談に乗るにしても、どこかの会社を勧めるにしても、私たち自身が知らなければどうしようもない、という事情は確かにあるのである。

 さて、一軒目は、石巻市の内陸部、北村にあるウェルファムフーズという会社。丸紅資本の鶏処理工場である。県内28箇所の養鶏場から運んできた鶏を、ここで殺し、解体して、肉として出荷する。その数、1日に24000羽、1年に640万羽。私たちは、解体→梱包・発送→屠殺の順で見せていただいたのだが、さすがに屠殺の場面では哀れを催した。鶏が気の毒だと思った。かつて中国の市場で、殺されることを一瞬前に察知した鶏が絶叫するのを見た(聞いた)ことがある。その声の激しさは長く耳に残った。食肉になるためだけに、わずか50日間の命を養鶏場で過ごした日本の鶏には、絶叫する覇気も根性もないと見える。ラインを進んでいくフックに足を掛けられて逆さに吊され、首をその下のベルトのようなところに固定されて、首を切られる場所へとおとなしく進んでいった。だからこそ、余計に哀れだったのだ。

 もちろん、残酷だなどと言ってはいられない。私たちの命は、それらによって維持されているのだから。仕事は一見単調で、何を喜びとして続けていくことができるのだろうか、と思ってしまうが、世の中のためには絶対に必要な仕事である。頭が下がった。

 工場に入場するための手続きの厳しさは、水産加工場では体験したことのないレベルで、これも印象的だった。製品への異物混入を防ぐため、あらゆる所持品と装身具を預けさせられ、頭の先から足元までを完全に防護服のようなもので覆い、ノートの持ち込みさえ禁止。メモは会社が用意したステンレス製のクリップボードと紙、そこに鎖でとめられたボールペンを使ってとる。会社の事務所に入る時から始まり、靴や手の消毒は何度も必要とされた。食の安全に対して、社会全体が非常に神経質だというのは知っていたが、会社としては本当に大変だ。

 2軒目は魚町の某水産加工会社である。最新式の加工場は従来の加工場のイメージとまったく違う(魚のにおいがしない、自動化が進んでいて、作業員が魚に触れることもほとんどないなど・・・)、と言われて訪ねたのだが、これは少々期待外れだった。確かに機械化された部分は多いけれども、やはりそこは水産加工場だった。他にも、「従来の加工場のイメージとまったく違う」と言っていた加工会社は存在するので、いずれまた他を訪ねてみた方がいいかな・・・?

 午後は、宮城県で最大、東北でも2番目に大きな造船所であるヤマニシ(石巻市西浜町)である。この造船所史上最大の船(全長168mのRORO船=自動車運搬船の類)が、進水式まであと1ヶ月、見頃を迎えていると聞いていた。事務所で、船の作り方や造船所内部の仕組みについて説明を聞いた上で、造船所内を一通り見せていただいた。

 まずは、構内のあちらこちらに、完成した部品が無造作に置いてあることに驚く。次には、船体を幾つものブロックに分けて作り、それを積み重ねていくのだが、そのブロックの大きさと、巨大な船の側壁がわずか1センチの厚さの鉄板でしかないことに驚いた。なんだか、陸上に置いておくと、自分自身の重さで歪んでいきそうだ。今作っているRORO船は、重量で6000トン(=通常船の大きさを表す時の排水量とは違う。本当の重さ)くらいになるそうである。作業開始から進水まで3ヶ月、それから完成まで3ヶ月、合計6ヶ月という短期間に、かくも巨大な鉄の塊が、ミリの精度で組み立てられていくというのは驚異である。その一方で、設計をその場で修正しながら作業するとか、置いておいた時に歪みが生じたところは、後で適当に直す、といった大雑把な(人間的な?)話もあって、なんだか不思議な気分になった。

 本当にいい勉強が出来た1日だった。鶏肉工場と造船所は、同じ製造業とはいいながら、あまりにも異質な世界だった。しかし、人間には適性というものがあって、鶏肉工場で働いている方々は造船所には向かず、造船所の作業員が鶏肉工場に適応することも難しいはずだ。各自がその適性にあった場所で活躍することで、世の中全体がうまく成り立つ。それが、今更ながらとても感動的なことに思えた。また、学校である以上は、生徒に教科の勉強をさせないわけにはいかないが、確かに、それを必要とする職場ばかりではないだろう。場所によっては、そんな能力は邪魔になるかも知れない。では、学校で生徒に何を学ばせるのか。それも難しい問題だな、と思わされた。工場の方々に感謝。