『宮水に明日はあるのか?』の結末



 このブログでもさんざん登場していた宮水情報科学科1年のクラス演劇『宮水に明日はあるのか?』は、全然「無事」ではなく、終了した。気にしている人もいるみたいのなで、結末を報告しておく。

 予定通り、11:00から「1回きり」ということで上演した。予定通りでなかったのは、私が「超満員を保証する」とさんざん言っておきながら、客がほとんど入らずマスコミも取材に来なかったことである。25人くらい入ったのかなあ?実行委員会に依頼しておいた直前の放送が入らなかったのは痛かったが、それだけの問題ではないだろう。当然、生徒のテンションはガタガタに下がった。声は小さい、エンディングの校歌もしょぼしょぼ。終わった瞬間には、生徒の顔には怒りと不満が渦巻いていた。私は、自分の見通しの甘さをひたすら詫びた。

 ところが、この時、演劇を見ていたラグビー部監督のK先生が、大騒ぎを始めたのである。いわく、「M(我がクラスの舞台総監督、幸か不幸かラグビー部員であった)!俺、今から観客いっぱい集めっから、もう一回やれ!!12:30だったら出来るな?これは、もっと人に見せないともったいねぇ!!」そして、K先生は会場を出て行ってしまった。私が見たところでは、3分の2くらいの生徒が「ふざけるな」という感じで、さあ、2回目やるぞ、などという雰囲気は微塵もなかった。しかし、Mは監督に頭が上がらないのか、全員に対して意見を聞くことなく、「もう1回やっから、12:00に集まれ」と一方的に宣言したのである。M自身も積極的な気持ちがあるとは見えなかった。険悪であった。

 私は急いでK先生を探しに行った。その時、K先生の声で「E1のクラス演劇は、好評につき(←笑)12:30からもう一度やります。見に来て下さい」という校内放送が入った。私はK先生を捕まえ、本当に大丈夫か尋ねた。続けてこう言った。「本当に生徒が2回目をやるかどうかは分からない。今の様子からすると絶対に無理だ。ただ、公演の10分くらい前に会場が満員になれば、生徒はやる気になるかも知れない。しかし、結局、さっきと同じように、2割や3割の入りでは、生徒の不満は更に高まり、2回目が行われないのはもちろんのこと、クラスがめちゃくちゃになる可能性すらある。先生が、勝手に言い出し、放送まで入れてしまった以上は、責任を取ってくれないと困る。今からの1時間に、宮水情報科学科の今後2年半がかかっていると思って欲しい。」K先生は、自信満々に「大丈夫、大丈夫」と言って、私の目の前で某クラスの出し物、「ボーリング」に興じる余裕を見せた。

 長い長い約45分を過ごした。昼食を取る気にもならない。時々、職員室の窓から会場である音楽室を見てみるが、人が集まってきている様子はない。12:12と12:13に、Mから電話がかかってきたが無視した。すると、某生徒が来て、出演する生徒の多くが北高の文化祭を見に行って帰って来ないから、やはり2回目は出来ない、やらなくていいか?と言う。私は、絶対にやるべきだと思った。やらなければ状況は良くならないが、やれば回復のチャンスが生まれる。その可能性に賭けるべきだと思った。しかし、そのような思いは一切表情に出さず、このことについては私が言い出したことではないし、何も強制する気はないので、Mを中心とする現場の判断に任せる、と答えた。おそらく、この時私が判断を任せたのは、Mではなく神である。

 12:25に会場に行くと、人は少し増えていたが、それでも3割くらいしか埋まっていない。全然「大丈夫」ではないのである。しかし、意外にもMたちは、戻ってこない出演生徒を呼び戻すべく動いていた。放送も入った。北高の文化祭に行っていた生徒達が、12:30になぜか走って戻ってきた。観客も「ぞろぞろ」とまではいかないが、じりじりと増えていた。中止の決定がされたという話もないので、これでやるのかな?今ようやく出演生徒が戻ってきた状態、しかも、彼らはこの間「ダメ出し」をしていたわけでも、不完全だった台詞覚えをしていたわけでもない。北高で遊んでいたのである。本当に出来るのかな?私は、はらはらはらはらしながら、ただ様子を見守っていた。

 10分遅れで上演が始まった。客席は半分以上埋まり、更に少しずつ人は増えていた。なぜか出演者の声が大きい。表情もやる気のない表情ではない。彼らの台詞に観客が実に敏感に反応する。よく笑ってくれるのである。端の席に座っていた客が、中央部の空席に移った。舞台にいる生徒達が急激にテンションを上げているのが分かる。最後の校歌もなんとか盛り上がった。客席は8割の入りにまでなっていただろうか。うまく出来たと思ったのだろう。客が引けた後の生徒達は、にこにこしていた。1回目が終わった時に、怒りに顔を真っ赤にしていた生徒も笑っていた。見に来ていた教員からは、「すばらしい」「いいものを見せてもらいました」「涙が出ました」と言っていただいた。私が見ても、拙い所も含めて、いかにも普通のクラスが、無理しながら頑張ってやっています、という素朴な素人芝居の良さがあったような気がする。

 生徒もくたびれただろうが、私もくたびれ果てた。しかし、こういうのを、「結果よければ全てよし」というのだろう。帰りのHRで簡単な感想を書かせたところ、ほとんどの生徒が「やった甲斐があった」「楽しかった」「またやろう」と書いていた。今日の功労者は、強引に2回目を実行させたK先生であり、私としては頭が上がらないのであるが、K先生をそういう思いにさせたのは生徒である。しかし、みんながご機嫌になったということと、私と生徒の関係がどうかということは別で、胸中なんとも複雑で落ち着かない。

 まあ、とりあえずクラス演劇の結末はこんなところ・・・。