「名古屋マーラー音楽祭」その後、または、教員の価値について



 5月18日に書いた「名古屋マーラー音楽祭への高校生ご招待」は、結局、22日までの5日間、河北新報に掲載されたが、31日の締め切り時点で、申し込みが定員の半分にしかならなかった。殺到か閑古鳥かどちらかだと思っていたので、意外の感はあまりない。

 県総体の3日間、私は残りの座席を埋めるべく営業活動をしていた(これも私が県総体に行った目的のひとつだった)。さすがは開明君子たる山岳部顧問。イベントの性質を説明すると敏感に反応し、「生徒よりもむしろ俺が行きたい」と言い出す人が続出した。が、彼らの宣伝活動の結果がどうなるかは分からない。なにしろ、高校生も忙しいからね・・・。

 ところで、マーラー音楽祭は「名古屋マーラー音楽祭運営委員会」が主催しているが、その背後には「NPO法人名古屋音楽の友」という団体が控えていて、それが実質的な主催者である。これは、「東海地方の音楽の普及を目指す」という目的で設立された団体で、代表者は私立東海高校英語科教諭の西村尚登氏である。

 私の手元には、既に名古屋マーラー音楽祭の総合パンフレットが届いているのだが、見れば見るほど想像を絶する大企画である。愛知、三重の10のアマチュアオーケストラと12の合唱団の連絡調整を行って、たった1年半の間に、難曲かつ大曲であるマーラーの11(1番〜9番+大地の歌+第10番の補筆完成版)の交響曲にウィーン音楽院におけるマーラーの学友ハンス・ロットの交響曲第1番を加えた12曲を演奏するというのは、多少事情が分かる人間の目には「神業」に見える。

 また、今回の高校生募集の話が、愛知ボランティアセンターの代表者から私の所に来た話は書いたが、その代表者とは西村氏と同じ私立東海高校の国語科教諭久田光政氏である。氏は、阪神大震災の時から愛知ボランティアセンターを組織し、愛知高校生フェスティバルの教え子たちと一緒に、熱烈で息の長い活動をしている。今回の東日本大震災に際しても、震災からわずか10日後の3月20日に下見として石巻入りすると、その後、毎週バス1台分の人々が支援物資の提供や後片づけ作業の手伝い、炊き出しのために名古屋から来てくれるようになった。何年か前に、中日文化賞を受けたという話も聞いたことがある。

 東海高校というのは私立の中高一貫、男子校で、名古屋界隈では優秀な生徒の集まる学校らしいが、どこかの変な県立高校と違って、何かにつけて受験を持ち出し、受験指導に力を注ぎ、東大や名大の合格者数に一喜一憂しているという風がない。部活が忙しいといった話も聞いたことがない。むしろ、保護者は受験学力よりも、もっと大きな人間的なもの、社会的なものを求めているという。ホームページを見ても、進学実績の話はデータとして詳細に紹介されているが、そのために課外をこんなにしていますとか、何とかプログラムの研究指定校になっていますとかいう話はどこにも出ていない。「サタデープログラム」なるものを見つけて、なんだ東海高校でも土曜授業をやってるんだ、と思うと大間違い。市民向けの格調高い公開講座である。自分の子どもを入れるなら、こんな学校がいいなぁ。

 旧知の久田氏について、「東海高校の教員だからあれほどのことが出来るのだ」という話は聞いたことがある。必ずしも能力の問題ではなく、勤務時間以外の自由がしっかりと確保されているという意味である。おそらく西村氏も同様なのだろう。仕事は仕事である。しかし、勤務時間はしっかりと守られ、アフター5でそれらのような社会的活動や、自分の趣味に没頭することが出来る。

 彼らは、生徒にとって「面白い先生」だろうな、と思う。授業の技術なんてどうでもよい。存在そのものに「面白い」と思わせる力があって、何をしていても生徒に影響を与えることが出来るのだと思う。私には、それこそが教員の価値だと思われる。

 自分の過去を振り返って、授業の恩恵をどれほど受けたのかはよく分からない。授業がなければ、学校生活にリズムと緊張が生まれないので、必要だとは思う。しかし、それがさほど多くを作りはしないし、価値があるのが授業の中身なのか、授業をしている先生の存在なのかと言えば、どうも後者のような気がする。つまり、学校には面白い先生が必要で、それは、義務感に基づく知識の獲得や、授業の方法論の勉強、生真面目な生活態度などからでは決して生み出されないものだと思う。あえて言えば、その先生が、その先生なりの生き方や好奇心を大切にする中からしか生まれてこない。私は彼らの姿に、そのようにして生み出された「面白さ」を感じるのである。

 彼ら自身が仕事と趣味・社会活動のメリハリある生活をして充実を感じ、その存在が生徒にとって面白く、その結果として生徒が影響を受けつつ自ら伸びて行き、社会も彼らから恩恵を受けるとなると、何一つ悪いことなんかないのだが、他の所はどうしてこうならない、いや、むしろ逆へばかり行くのだろう?


あ、名古屋マーラー音楽祭への参加、まだ受け付けています。ぜひ、お知り合いに紹介して下さい。申し込み・問い合わせはマーラーメール( mahler_sym8_nagoya@yahoo.co.jp )へ。