今年も最高級のアンサンブル!



 今日は、昨年に引き続き(←2012年4月8日記事参照)、「トヨタ・マスタープレイヤーズ・ウィーン」の演奏会に行った。名前にだまされてチケットの売れ行きがはかばかしくなかったと見えて、繰り返し繰り返し新聞に広告が出ていた(最終的には売れたようで、今日見た感じではかなり満席に近かった。よかった、よかった)。トヨタが全面的に支援して開かれるコンサートなので、そんな名前になっているが、ウィーンフィルのメンバーが主体となっていて、「ウィーンフィルハーモニー室内合奏団」の趣が強い。今年のメンバー30人の内、純粋なウィーンフィルのメンバー(元は含む。国立歌劇場だけの人や客員は含まない)は13名で占有率43%。これは、昨年と同じである。

 今年のプログラムは、ワーグナージークフリート牧歌」、ブルッフクラリネットビオラのための協奏曲ホ短調」、ベートーベン「ロマンス第1番」「交響曲第7番」であった(客演の独奏者はビオラ清水直子だけ)。私が最も楽しみにしていたプログラムは、冒頭の「ジークフリート牧歌」であった。

 この曲は、今年生誕200年となるリヒャルト・ワーグナーが、妻・コジマの誕生日のプレゼントとして作った曲で、初演はもちろん、コジマの誕生日(1870年12月25日)に自宅で行われた。従って、いくらワーグナー邸が立派なお屋敷だったと言っても、編成は小さく、弦楽5部にフルート1、オーボエ2、クラリネット1、ファゴット1、ホルン2で、初演時のメンバーは15名であった。編成が小さいため、各楽器奏者が独奏者であることが求められる。つまり、この曲が美しく響くためには、演奏者が名人揃いでなければならない。しかも、なんとも柔らかで温かさに満ちた曲想である。だから、これはまさに「偉大なる田舎オーケストラ」であるウィーンフィルのメンバーが演奏するために作られたような曲なのである(ただし、初演時はスイスのチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の選抜メンバー。これはワーグナーの人間関係による)。私の愛聴盤も、ショルティ指揮のウィーンフィルだ。

 残念ながら、「ジークフリート牧歌」は、野球で言えば、「ピッチャーの立ち上がりが悪い」状態で、いささかメンバーの一体感に欠け、期待したほどの演奏にはならなかった。しかし、この後はすばらしかった。特に、最後のベートーベンの交響曲など、普段日本のオーケストラが、70人くらいで演奏しているのは一体何なの?という感じがした。アンサンブルも、音色も素晴らしいのはもとより、音量においても、30人であることなどまったく感じさせないのである。このアンサンブルの素晴らしさは、おそらく、演奏者が、お互いの音を聴き合う中でコントロールされ、生み出されているのだろう。だが、そのようにすると、自分がアンサンブルを乱さないように、音が消極的になりかねないような気がする。ところが、そんなことは微塵もないところがすごい。いつもいつものことながら、仙台で聴くことができる最高級の音楽があった。

 アンコールには、ヨハン・シュトラウス「こうもり」のチャールダッシュと、ブラームスハンガリー舞曲第5番が演奏された。「こうもり」は、やはりこれこそが彼らの十八番!と感じ入った。