心から流れ出る音楽・・・小山実稚恵さんに感謝



 昨日は、娘と一緒に、「石巻百景」というホームページの写真展(イオン石巻)を見に行き、その後、小山実稚恵のピアノリサイタルに行った(東松島市コミュニティセンター)。「東松島げんきコンサート」という被災地支援のもので、娘のピアノの先生を通して無料の整理券を手に入れたのだが、タダだから行ったという失礼なものではない。仙台出身、チャイコフスキーショパンという世界の2大コンクールで入賞した唯一の日本人というこのピアニストは、以前2回だけ聴きに行ったことがあるが、なかなか優れた人だと思っていた。石巻地区に来るとなれば、多分、有料でも行ったと思う。

 昨日のプログラムは全て当日発表で、以下の通り。

1:シューベルト 即興曲 作品142の3

2:ベートーヴェン ソナタ第14番「月光」

3:ショパン アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ

4:ショパン ラルゲット(ピアノ協奏曲第2番第2楽章のソロバージョン)

5:ショパン 英雄ポロネーズ

アンコールとして

6:ショパン 子犬のワルツ

7:スクリャビン 左手のためのノクターン

8:ショパン 華麗なる大円舞曲

 全部で1時間半である。曲が曲だったこともあるが、とても盛り上がったいい演奏会になった。

 最初のうちは、ピアノの質の悪さから来る音の具合や、ミスタッチが気になっていた。日頃、青年文化センターの高級なベーゼンドルファーの音に慣れていると、それが普通のピアノの音だと思ってしまう。コミュニティセンターのピアノは、カワイ製で、カワイの中では相当グレードの高いピアノだと思うが、それでも特に高音の響きの薄っぺらさは気になった。2000万円を超えるピアノが「標準」になるのは、なんだか異常な感覚だと思う。私が大好きなベートーヴェンは、1楽章の速さから始まって、いろいろと違和感のある解釈も多く、音楽に素直に入り込めなかった。

 ところが、ショパンが始まって間もなく、ピアノの音質も気にならなくなり、音楽に没頭できるようになった。ショパンを得意にしていたと言うより、ピアニスト自身が音楽に入り込むのに40分かかった、ということではなかったかと思う。立ち上がりとは、多分そんなものなのだ。その後は本当に素晴らしかった。気が付けば、夢中になっていた。「ラルゲット」や「左手のためのノクターン」といった、ゆっくりの曲が特によかったと思う。あと1時間くらい聴いていたい気分だった。

 こうなると、あまり分析的なことは考える気にならない。ピアニスト自身が、心の底から音楽を素晴らしい、楽しいと思いながら演奏していたのではないか、と思う。音楽が、素直に、わき出るように流れていたような気がした。こちらも素直に、その流れに身を委ねただけである。ピアニストの本心は分からないけれど、やはり、音楽というのは技巧や解釈よりも、心によって人の心を動かすものなのだ、と思った。

 コンサートが終わって外に出ると、晴れ渡った秋空に仲秋の名月が高く輝いていた。いい夜を過ごした、と改めて思った。