内閣改造のおぞましさ、または「環境問題」



 第2次安倍改造内閣、だそうである。1人の閣僚も辞任することなく、600日以上政権が続いたというのは戦後初めてらしいので、その間に行われたことがいかに破廉恥であったとしても、それはそれ、これはこれで評価をしなければなるまい、と思う。安定を望む日本人としても、ありがたい内閣だったはずだ。だが、そうなると、なぜ内閣改造が必要だったのかは、ますます分かりにくい。

 今日の『毎日新聞』に、「「待機組」不満噴出」という見出しの記事があった。ま、予想の範囲内の記事ではあるが、要は、大臣になりたくて仕方がない議員が多数いて、今回の内閣改造でも入閣できなかった彼らの不満は大きく、これが今後の政権の安定性にとって大きな不安材料だ、というような記事である。「大臣適齢期」とされる衆院当選5回、参院当選3回以上の大臣未経験者は、自民党内に約60人いる。今回の内閣改造は留任が10人もいて、初入閣は8人。しかも、女性を多く起用するという方針の下、基準に満たない女性初入閣者が2名出たため、「待機組」からの初入閣は6人に過ぎなかった。「待機組」はまだ50人以上いる。彼らの不満が押し止めようのないほど高まっているのだという。

 おぞましい話である。政治家が政治家をしている理由が、国家や国民のためではないことがよく分かる。もちろん、その浅ましさを重々自覚している彼らは、大臣ポストを欲している様子をあからさまにはしないだろうし、大臣就任への意欲を語ることがあるにしても、「国民の生活のためにより重い責任を果たしたい」くらいのことは述べるに違いない。だが、本心は、自分自身の利益(威張りたい、人の上に立ちたい、ちやほやされたい、などを含む)だろう。世の中がよくならないはずである。

 第2次安倍改造内閣は、相も変わらず「経済最優先」で仕事をするそうである。一昨日の『河北新報』投稿記事にあるとおり、これは私と正反対の考え方なので、私としては何の期待もない。むしろ、できるだけ何もしてくれないことを願うばかりだ。

 そうこうしているうちに、デング熱の感染が拡大してきた。専門家は以前から、感染源であるヒトスジシマカの生息域が、温暖化の影響から、この60年で350キロあまりも北上(青森県に到達!)したことで、日本でも流行の可能性があると危惧していたそうである。この考え方から行けば、エボラ出血熱マラリアが日本で流行する日も来るかも知れない。温暖化は暑さと危機的な気象現象をもたらすだけでなく、伝染病も運んでくる。

 今日の新聞各紙は、8月の西日本で見られた大雨と日照不足が、「30年に1回以下の割合で起きる「異常気象」」だったという気象庁の見解を伝えた。「観測史上最高」という言葉を見る機会が多すぎて、「30年に1回以下」くらいでは迫力に欠ける印象を持ってしまうが、深刻な事態である。「経済最優先」「景気回復の実感を地方にも浸透させる」とは誠におめでたい話である。

 先週末の二日間、NHKが、異常気象についての特集番組を放送していた。その中で、人間の経済活動によるものではないが、11700年前、50年の間に気温が10℃上がった時期があった、という事例が紹介された。11700年前と言えば、どう考えても人類が誕生した後である。番組の解説者であるトーダイのセンセが、それを人間は生き延びてきた、と言い、司会者であるタモリが相槌を打ち、だから今世紀の温暖化でも人間は生き延びるだろう、みたいなことを言っていた。これまたおめでたい話だな、と私は思った。

 確かに、生き延びたかも知れない。だが、それは「全ての人」が生き延びたわけではない。絶滅を回避できる程度に生き延びられた人もいた、というだけだ。今回の「人間の経済活動を原因とする」温暖化でも、強靱で、運にも恵まれた誰かは生き延びられるだろう。この私ですら、人類が「絶滅」するとは思っていない。だが、大半は死ぬことになるだろう。おそらく、死ぬことになる多くの人が、人間という種が生き延びられればそれでいいとは考えないはずだ。だとすれば、今考えなければならないのは、全員が生き延びるためにどうしたらいいか、である。「人間は生き延びた」と言ってしまえば、その方法を考えなくなってしまう。二酸化炭素を減らすことはできないと言うが、本当はできるのであり、「しない」だけなのである。

 人間は、自分が見たいと思うものしか見ない。自分がそうなって欲しいと強く願うことは、実現するかのように錯覚する。だが、自然はそんな人間に容赦はしない。

 『河北』に書いたとおり、IPCCの報告によれば、最悪の場合、今世紀末に世界の平均気温は4.8度上昇するという。人によっては、それは「最悪の想定」ではないか、と笑うだろう。だが、私は逆である。4.8度で済まない可能性の方が高いと思っている。

 例えば、大規模な自然災害が発生する。すると、今の延長線で考える限り、東日本大震災の時と同じように、復旧、復興、生活再建のために、過剰な手当てをしようとする。気温が上がれば、際限なくエアコンに頼ることで、今までの生活条件を守ろうとする。こうして、加速度的に大量の石油を消費する。もちろんそれは、二酸化炭素の増加をもたらす。また、IPCCも指摘しており、私はその慧眼を褒めたことがある(→こちら)のだが、温暖化が進むと、食糧事情も悪化し、食糧事情が悪化すると、食糧を求めて紛争が勃発する可能性が高い。戦争ほどエネルギーを消費し、二酸化炭素を増やす行為はない。こう考えてくると、今の延長線上で考えるだけでは済まない、あらたな化石燃料の消費と二酸化炭素の増加は、連鎖反応の中で加速していく。だから、経済活動と人口増加だけの延長線上で考えられた想定は、過小に過ぎるだろう。それを笑う人には、やはり、こういう場合「白か黒か分からないのは黒である」という言葉を返すしかない。

 第2次安倍改造内閣の話がずいぶん横にそれた。アベノミクスは、間違いなく環境を悪化させる。全ての価値判断の軸を「環境」に置かなければ、もう間に合わない時期に近付いているのに・・・。