ギャンブル依存症と過払い金請求



 今年の夏に厚生労働省が発表した、ギャンブル依存症に関するデータは衝撃的だった。日本人におけるギャンブル依存症の人は、「疑い」を含めると536万人、成人全体の4.8%、男性では8.7%にも及ぶという。私は、それを知って胸を痛めたり、腹を立てたり、嘆いたりしていたのだが、8月22日の「天声人語」で、このデータが、他国(1%前後)との比較でも異常だということを知り、危機感は更に強くなった。

 11月17日の「クローズアップ現代」で、やはりギャンブル依存症が取り上げられているのを見ていて、ふと思い立ち、新聞にどれくらいパチンコ屋の広告(チラシ)が入っているかを調べてみた。地元の実情を知りたいということで、調べたのは『河北新報』である。

 その結果、11月17日(月)から23日(日)までの7日間で、パチンコ屋のチラシが14枚、広告が8件であった。意外に少ないな、というのが実感。実はもっと多いと思っていた。ただし、この7日間が平均的であるかどうかは分からないし、予想より少なかったというだけで、チラシが1日当たり2枚、広告が1件というのは、賭博場の宣伝が一般紙に入っているという事態の深刻さと合わせて考えると、少ないとは言えないだろう。

 私は、この異常な数のギャンブル依存症患者を生み出した中心地は、パチンコ屋だと思っている。馬・船・自転車に比べると場所が多く、手軽である上、買って結果を待つ、のではなく、時間の流れに従って際限なくお金をつぎ込んでしまう構造になっているからだ。しかも、形式上は玉を換金できない、つまりは賭博場ではない、ただの遊び場ということになっていながら、実際は脱法的に換金が可能であり、それが黙認されているから、余計にたちが悪い。

 私が、このことと合わせて、最近ひどく気になっていることがもうひとつある。それは、弁護士事務所の広告の多さだ。そのほとんどが「過払い金請求」を目玉としている。参考までに、パチンコと同じ期間、弁護士事務所の広告も探してみた。意外にもたった4件、そのうち1件はB型肝炎訴訟がメインで、借金問題は3件であった。全て広告である。えっ?こんなに少ないのかな、といぶかしく思いはしたが、やはり、一昔前にはそんな広告は存在しなかったであろうこと(←要確認)を考えると、安易に「少ない」とは言えない。調査期間終了翌日、24日(月)にはチラシも1枚入っていた。

 この背後には、弁護士が増えすぎ、仕事に困っているという現実があるのは確かだろう。だが、弁護士が仕事を探す場合、まず借金問題に目を付けるというのは、制限利息を超えるような高い金利で金を借り、借金地獄に苦しんだ(苦しんでいる)人が相当数いることを窺わせて恐ろしい。仕事に困っている弁護士が、費用に見合う効果の期待できない広告を出すわけがないのである。そして、ギャンブル依存症と、弁護士事務所の広告は無関係ではないだろう。

 パチンコ問題については、以前、少し書いたことがあるのだが(→こちら)、その時に触れた若宮健『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』(祥伝社新書、2010年)によれば、日本でパチンコ屋という賭博場が堂々と店を構えていられるのは、パチンコ屋から国会議員に多くのお金が流れていること、パチンコ業界が警察官僚の天下り先となっていることなどによる。要は、権力を持っている人々の利益になるからである。更に、チラシを含めた広告費を費やせば、マスコミもパチンコ批判がしにくくなる。パチンコ屋の側から見れば、政治家や警察官僚にそれだけ甘い汁を吸わせ、マスコミに貢いでも、なおかつ儲けになるから、そういうことをするのである。つまり、全ては「金」なわけだ。

 ギャンブル依存症になり、脳が変質し、多額の借金に苦しみ、本人だけでなく家族も追い詰められていく。それが「金」のために容認される。更にはカジノの設置まで検討されるというのは、なんという貧しい世の中であろうか。

 安倍政権は、歴代自民党の中でも、特に「金が全て」という特質が露骨な政権である。それを支えているのは国民である。いったい幸せとは何なのか。大人の20人に1人もがギャンブル依存症を疑われる状態になりながら、まだその深刻さと、背景について考えられない、というのは困ったことだ。いや、ギャンブル依存症になってしまえば、そんな冷静な思考回路は機能しないから、政治家にとって好都合だということなのだろうか。

 マスコミの論調の中には、ギャンブル依存症の人をどうケアするか、という問題意識に立つものが目に付いた。だが、病人を治すことは必要であるにせよ、同時に、今後病人を作らないこと、そんな病気のない社会を作ることを真剣に目指さなければ、アクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態となって、世の中はいつまでたっても健全にならない。そのために何をすべきなのか。私には、さほど難しいことには思えないのだが・・・。