大資本はすごい!



 今日は、息子と二人で仙台に行った。「楽天イーグルスアカデミー」という小学生向け野球教室の無料体験に参加するためである。

 折しも、ペナントレースがおととい開幕した。1時間あまり前に球場(コボスタ)に着くと、札幌ドームで行われていた日本ハム戦のパブリックビューイングをやっていたので、それを見る。無料で、内野のフィールド以外、球場全てを解放している。外野のフィールドで寝そべって観戦している人が多い。私たちも、右中間でゴロゴロしながら見ていた。何しろ1対11という悲惨な負け試合だったので、盛り上がりには欠けたが、息子はコボスタのグランドに入れたことで大喜び。せっかくだからと、人工芝の上を思い切り走ったり、外野フェンスのクッションがどのようなものかぶつかって体感したり・・・これはこれで楽しめた。

 小学校1〜3年生用の無料体験教室は、17時から雨天練習場で行われた。通常は入れないどころか、見ることすら出来ない場所なので、私自身もここに入れるのをけっこう楽しみにしていた。内野+αのグランドの他、ブルペンが4人分とバッティングマシン付きのゲージが3人分ある。プロともなれば、何から何まで至れり尽くせりだと感心した。

 元選手ほか2名、計3名のコーチが30人あまりの小学生に、1時間で、準備運動、キャッチボール、ティーバッティングといったことの基本的な指導をしてくれた。とはいえ、何しろ小学校低学年なので、技術の向上というよりは、野球を好きになるように(嫌いにならないように)、自由にやらせておいておだてる、といった感じである。息子はずいぶん楽しかったらしいが、石巻での教室に参加させるかどうかは、小学校の野球チームとの関係や、経費とのバランスも考えながら少々慎重に考えることにする。

 終わって外に出ると、コボスタでは、明後日のホーム開幕戦の準備が行われていた。大中小いくつものスクリーンに写真や文字を映しながら、場内アナウンスと合わせていくリハーサルらしかった。場外からなので、その全てが見えたわけではないけれど、あまりにも明るく華やかな演出の雰囲気はよく伝わってきた。球場も少しずつ増改築されながら、本当に大きくなった。

 楽天がこの地を本拠地に誕生してから10年になる。この球団が生まれ、昔の宮城県営球場の指定管理者となって、大規模改修を行った当時、幸か不幸か、私は仙台一高の応援団顧問をしていた。応援団顧問にとっての大仕事は、毎年、5月初旬に行われる仙台二高との硬式野球定期戦である。「杜の都早慶戦」と言われるこの行事は、野球においては甚だ平凡な二つの県立高校野球部が試合をするだけなのに、TBC(東北放送)の実況中継まで行われていた(今はない)。応援団は臨戦合宿と称して3日くらい前から学校に泊まり込み、試合の2日前にはアピール行進という宣伝パレードが、市の中心部の繁華街で行われた。当然、当日の全校応援にはそれなりの激しさがある。

 これが楽天との間でトラブルとなった。県営球場の時代には、まったく自由に使えた球場が、禁止事項だらけの窮屈な場所に変わってしまったからである。球場の実質的な所有者が楽天になると、どうして窮屈になるかと言えば、高校生が荒っぽい使い方をして、その後に行われるプロの試合に影響が出ると困るからである。プラスチック製の座席を壊すとか、企業の広告を汚すというのが、最も営業に直結することであるが、高価なチケットを買って入場する人に最高の環境を提供するということなのか、手すりや柱に小さな傷を付けるということについても、信じられないほどうるさく言われた。野球場ではなく、まるで茶室を借りるようだ、と思ったものである。入場にも応援にも、様々な禁止事項、注意事項が生まれた。生徒に出来るだけ伸び伸び活動させてやりたいと思う私たち教員にとって、事前に何度か行っていた球団との打ち合わせは、気の滅入る疲れる時間であったし、当日球団からにわかに持ち込まれる苦情(注意)には神経をすり減らした。もっとも、2〜3年経つと、思っていたほど高校生が粗暴ではなく、後始末もいいということに気付いたのか、こちらも彼らの立場や状況が理解できてきたのか、なんとなくお互いに円満な落ち着き所を見出し、最初の頃のようなとげとげしい雰囲気はなくなった。(その後私は異動したので、今はどうか知らない。)

 それは、暢気な高校とシビアなビジネスの世界との違いだったのだろう。それにしても、大資本というのはすごいと思う。今やコボスタに、昔の宮城球場の面影は一切ない。球場外の付属施設まで含めて、ひたすら明るく華やかだ。おそらく、これが「人に夢を与える」世界というものなのだろう。なんだか一種の虚構のようで、私にはリアルに感じられない。今日の帰り、球場から漏れてくるリハーサルの光と音を見ながら、以上のような思い出と感慨とが一瞬のうちに頭の中を駆け巡った。