おしょろ丸(4)

 最終日はレポート発表だった。一人持ち時間5分、質疑5分、合計10分で、15人だと2時間半かかる。船が弁天埠頭に戻り、他の研修団体が続々と下船していく中で、発表会は続いた。
 実は、このレポート=修了試験となっており、しかも、問題は7月に資料が送付されてきた時、既に同封されていた。その問題とは、「『練習船を利用した新たな実習課題の提案』あるいは『新たなる野外実習課題の提案』をまとめること」というものである。書き方として、以下のように補記されていたが、乗船後に聞いた話では、科研費の申請書類に準じる形で作られているそうだ。

0.実習対象と課題の具体的内容
1.その実習のどこに新規性があるのか、時代のニーズにかなうのか
2.その実習を受講することによって何をどこまで出来るようになるのか(設定目標)
3.その他の項目(実施可能なためのクリアすべき問題、費用など)

 乗船初日に、担当のT先生から若干の説明があった。過去に受講した研修生のレポート集が学生食堂兼教室に準備してあって、自由に閲覧できるようになっている。教員免許更新講習が始まって以来、修了試験は毎回同じ問題らしい。
 私も、何かの都合で少し時間が空いた時に、それらをぱらぱらとめくってみた。どれもこれも本当に真面目に書かれている。特に、宮水のかつての同僚たちのレポートは興味深く読んだ。が、それらを読むと、新味を出すことがますます難しくなってくる。学術論文でもあるまいし、先行研究を全てインプットし、それを踏まえて書くなど大げさな感じだ。どれもこれもあまり代わり映えがしないこともあって、面倒くさくなってしまった。
 結局私は、誰も飲酒に付き合ってくれない1日目の夜、「サロン」という部屋にこもって30分で仕上げた。テーマは「高校生(特に水産科以外)に対するインターンシップ的体験航海」というものである。現在、例えば宮城県でも、県の練習船では海技士養成を目的とした航海しか行われていない。会社のインターンシップでは、入港中の船に接することは出来ても、実際に洋上に出ることは難しい。船員のなり手不足が叫ばれる現在、水産高校の航海系、機関系のクラス以外の生徒は、船内生活の実際や、船員の仕事に触れるチャンスがない、練習船を使って船と船員の仕事について知るための企画を作れないか?これが提案の主旨だ。他愛もない内容だが、過去数年間の受講生のレポートで、類似のものがまったく存在しない、という点では立派なものである。
 この提案がどう評価されたのかは知らない。先生から、船員手帳に関する的外れな指摘がひとつ出ただけで、あっさりと終わった。最後に、責任指導教官のT先生から若干の総括があり、全員のレポート・コピーをいただいて下船となった。久しぶりで青空の見える気持ちのいい天気である。
 個性豊かな先生方やサポートの北大生とも出会い、いろいろなことを見聞きしたいい3日間ではあったが、惜しむらくは、私以外14人の参加者とのコミュニケーションがさほど濃密ではなかったことである。
 最初に自己紹介がなかったのがまず悪い。これがないと、なかなかどのような人か分からないだけでなく、話の糸口もつかみにくく、相手にどこまで聞いてよいかも分からない、という困った状態になる。時間が空くと、部屋に戻ってしまうというのもまずかった。もちろん、それ以前の問題として、私自身、人見知り傾向が強い(慣れると図々しい)から、講習に必要なこと以外、積極的に話が出来なかったということもある。なんとなく仲間意識のようなものが生まれたのは、最後のレポート発表が終わった頃である。こんな講習に目を付け、努力して予約を取り、相当な遠隔地から集まってきた人たちである。本当は面白くないはずがない。あと2日くらい講習が続けば、相当愉快な集団に変貌を遂げたのではないか?と思った。2度目がないというのはなんとも惜しい。(完)