1学年主任のお話

 デンマーク国立交響楽団の演奏会に先立つ一昨日の午後、勤務先の塩釜高校では「合格者説明会」というものが行われた。学校によって「入学者説明会」だったり、「予備登校」だったり、小学校だと「一日入学」と言ったりする、あれである。
 なんとびっくり、私は来年度「1学年主任」である。学年主任は管理職による指名だ。「残業ゼロなどとブログに書いていい気になっている」とにらまれた結果かも知れない、が、大丈夫(笑)。「5時に帰れる1学年」を目指すために、学校長が全面的にバックアップしてくれるなら、という条件で引き受けたのである。実は、もうひとつ条件(と言えば偉そうだなぁ。「確認」と言った方がいいかも)を出したのだが、それについては今どうしても書けない(楽しみにしていて下さい=笑)。
 「合格者説明会」では、もともと1学年主任の出番は設定されていなかった。学業に関することであれ、様々な生活に関することであれ、教務部や生徒指導部の担当者が説明をするのだから、学年としてわざわざ話すべきことなどあるはずがない、ということなのだろう。
 しかし、入学式に私の出番はない。次に保護者が学校に来るのは4月20日のPTA総会なのだが、その出席率は例年惨憺たるものである。だとすれば、全保護者に対して何かしらのことを直接言えるのは、合格者説明会以外にはない。やはり、最前線で360名の1年生と関わっていく立場として、たとえ教務部や生徒指導部の説明と重なることがあったとしても(多分重ならないという確信はあった。なぜなら、私が大切だと思うことと、人が大切だと思うことはたいていズレているから=笑)、しっかり保護者に分かって欲しいことを言っておいた方がいい。私はそう思い、新1学年のスタッフ会議に諮り、他の教員が保護者に伝えたいと思っていることも聞いた上で、主管である教務部に言って、私のお話の時間を作ってもらったのである。
 というわけで、以下、私からの「お話」を復元、公開しておく。もちろん、例によって簡単な構成だけ考えて登壇し、その場の反応を伺いながら半ばアドリブで話しているわけだから、復元も一字一句正確だったりはしないが、多少の臨場感を感じてもらうためにも、内容上あまり意味のない部分も含めて、実際の「お話」にできるだけ近い書き方をする。せいぜい10分ほどのお話も、文字にすると意外に長いが、もったいぶらずに、今日1日で一挙公開!


「こんにちは。今、総務担当の先生が「最後です」と言ったのに、また出てきてがっかりですよね。(司会者に=私の後にまだ誰かいますか?・・・いない?私で最後ね?)・・・私で本当に最後だそうです。安心して下さい(笑)。
 来年度、1学年主任になる平居と言います。この学年にはヒライが二人いますので、国語のヒライというふうに憶えていて下さい。もう一人は数学のヒライ先生です。いいですか?国語のヒライです。
  えーと、実は、全ての生徒・保護者の方を前に私が話す機会って、今日しかないんですよ。入学式は出番ありませんし、PTA総会は多くの方が来て下さらないし・・・。もしかすると、そもそも全員にお会いするというのが、卒業式までないかも知れません。そこで今日、既に勉強や生活について話があったにもかかわらず、あえて皆さんと直接関わる1学年の担当者として、少しお話ししておこうと思って来ました。
 さて、私達にとって、皆さんを迎えるというのは非常に楽しみなことです。ワクワクしています。では、私たちがどんな考えで皆さんを迎えるか、まずは、その前提を確認しておきます。
 私たちは、皆さんが中学校卒業の時点で、自分の意志で塩釜高校への進学を決めたと考えます。高校は義務教育ではありません。進学する必要なんてないんです。そんな中で、皆さんは、自分で高校進学という進路選択をし、塩釜高校を選びました。もしかすると、「違う」という人もいるかも知れません。中学校の先生から、あんたの成績なら塩高だよって言われたとか、先輩や同級生に強く誘われたとか、親から高校ぐらい出ておきなさいとしつこく言われたとか、いろいろな事情があるのかも知れません。でも、私達はそんなこと知りません。あくまでも、皆さんはもっと勉強がしたいと思ったから進学を選び、塩釜高校に入りたくて受験した、と思っています。
 このような前提に立って、確認しておきたいことが2点あります。
 ひとつは、高校は勉強する場所だ、ということです。私が今までに出会った生徒で、高校って何するための場所?って聞いて、答えられなかった生徒、とんちんかんなことを言った生徒は一人もいません。皆さんもおそらくそのことは分かっていますよね?人生何でも勉強だ、というのは確かですが、そんなことを言ったら、何をしていてもいいということになってしまいますから、この場合の勉強するっていうのは、教科の勉強をすることです。高校は第一に教科の勉強をする場所です。そういう場所に、皆さんは自ら選んで入って来ました。まずはこのことを忘れないで、しっかり勉強して下さい。
 二つ目です。今、ここには生徒と保護者でこれだけの人がいますが、これで人数から言うと塩釜高校の2学年分です。更に1学年分入ってようやく全校生徒です。すごい数ですよね?なにしろ塩釜高校は、去年から学級数が1つ減って、1学年9学級になったとは言っても、宮城県で一番大きな公立高校です。これだけの人が一緒に生活するわけですから、どうしてもルールというものが必要になります。皆さんは平等です。だから、一人の人がやっていいことは、全ての生徒にとってやっていいことです。言い方を変えれば、一人が勝手なことをやり始めると、収拾が付かなくなる、ということです。集団生活のルールについては、しっかり守ってもらいます。
 合格発表の後で、「入学のてびき」というこの冊子が渡されましたよね。ここには、塩釜高校で生活していく上でのルールが書かれています。よく、入学後に「知らなかった」という人がいますが、ここに書いてあることは、既に言ってあるということになります。親子でよく読んで、塩釜高校ルールというものをを理解した状態で入学式に臨んで下さい。
 さて、次に、もう少し具体的な話をしましょう。
 皆さんが高校3年間で目指すのは自主・自律ということです。皆さんの中には大学に進学する人もいるでしょうし、専門学校に進む人もいるでしょう。しかし、そんな人も含めて、高校卒業の時点では1人で生きていくことができるようになる必要があります。4年前からは高校3年生に選挙権も与えられるようになりました。私たちにとっても、皆さんをそのように自立した大人にすること、これが大切な目標です。
 ところが、最近、保護者だけではなく、私たち教員も含めて、「大人」が子どもに対して過干渉、過保護である傾向が強いと思います。しかし、子供を自立させようと思ったら、それはまずいですよね。子供が自分でできること、子供自身がやらなければならないことは子供にやらせるべきです。
 私は先ほど、受付で皆さんの様子を見ていました。子供が1人で来て、きちんと挨拶をして、必要な書類をてきぱきと出して、また挨拶をして戻っていくというのもありました。親子で来て、お母さんが、子供に「ほら、挨拶しなさい」、「ほら、この紙出して」と教えている親子もありました。親子でやって来て、子供はボーッと挨拶もせずに立っているだけ、その横で親があたふたと荷物を開けて書類を取り出す、なんていうこともありました。保護者の方が1人でやって来る家もありました。親がこういう場面でどういう態度を取るか、それによって子供が自立できるかどうか、3年間で大きな差が付きます。
 子供が自分でできることは子供にやらせて下さい。先ほど、生徒指導の担当者から、保護者が子供を送迎する場合に車を止める場所の話がありましたが、送迎なんてする必要ありません。自分で学校に来させて下さい。来れますから。ここにいる保護者の方々なら、ほとんどの方は自分が高校時代、車で親に送ってもらったなんていう経験ないんじゃないですか?
 例年、この時期、保護者の方から高校生活についての質問のお電話を頂きますが、そのほとんどは、子どもが自分で聞けばいいような内容のことです。どうして親が電話するんですか?分からないことがあったら、自分で電話をかけさせて下さい。先ほど、欠席連絡は保護者からという話がありましたが、これは、保護者が子供の欠席を知らないと不都合な場合があるからで、やむを得ない例外だと思って下さい。親が直接電話をする必要があるのは、その欠席連絡と、お金や生活環境に関する何か特別な事情がある場合くらいです。
 次、基本的生活習慣、いわゆる「しつけ」に関わることについては、家庭でしっかりして下さい。髪が茶色だったり、口紅塗った状態で家を出さないでください。
 もうひとつ、携帯電話の問題です。校内での携帯電話の使用ルールは、先ほど説明があったとおりです。塩釜高校生は比較的、あくまでも比較的ですよ、節度がある方かなと思います。それでも、スマホが常に気になる生徒、節度を守ることができなくなっている生徒は少なくありません。SNS等による問題が毎年何件か発生するというのも、先ほどお話があったとおりです。スマホを子供に持たせることについては、一度、各家庭でしっかり考えて欲しいと思います。
 スマホについて、生徒はよく「連絡を取るのに必要だ」って言うんですけど、本当は違いますよ。連絡が必要だからスマホを持つんじゃなくて、スマホを持つから連絡を取る必要が出てくるんです。スマホを持ってて、いつでも連絡できると思うから、何をするにも行き当たりばったり、計画を立てるとか、誰かと約束をしてそれを守るとかができなくなるんです。本当に必要な連絡なんて滅多なことでありません。実は、私にも同じ年頃の子供がいるんですけど、高校卒業までは絶対にスマホは持たせないって言ってありますし、私自身も、じっくり物を考えたり憶えたりする上で邪魔だなと思ったので、8年間使った携帯電話を7年前に解約しました。それで困っていることなんて何もありません。
 先日ね、うちにはまだ小学校に通っている子供がいるんですけど、学校から「学校評価アンケートのまとめ」というプリントをもらってきました。今、どこの学校でも保護者と生徒を対象にアンケートってありますよね。他がどうか知りませんけど、うちの息子が通っている小学校はすごく丁寧で、数字化できる部分だけじゃなくて、自由記述欄に書いてあったことまで全部書き出して、学校がコメントを付けて印刷してあるんです。けっこう分厚いものです。ずーっと目を通していて、びっくりしたことがあります。「スマホやゲームの使い方についてもっと指導して欲しい」というような意見が、何人かから出ているんです。本当にびっくり仰天。いったい、スマホやゲームを買い与えたの誰なんですか?って私は思いますよ。
 勉強に専念することを妨げ、トラブルに巻き込まれる可能性を増やす、そんな物を月々数千円も払って本当に高校生に与える必要ありますか?もう一度、各家庭できちんと考えてみて下さい。
 最後に、もう一度、前提に関わることをお話しします。
 皆さんの中には、中学校で相当成績優秀だった人もいると思います。私は勉強苦手だったという人もいるでしょう。いや、1.51倍の入試を突破した皆さんだから、全然ダメだったという人はいないでしょうけど、数学が苦手だったとか、英語は厳しいとかいう人ならいますよね。欠席が多かったという人もいるかも知れない。だけど、私はそんなことはどうでもいいんです。中学校に聞けばいろいろと教えてくれるんだろうけど、私たちはそんなことをする気はありません。皆さんは今から高校生活を始めるわけだから、ゼロからのスタートです。今ここから頑張ればいいんです。そして、私たちは、そんな皆さんの姿だけを見ることができればいいんです。
 楽しく充実した3年間になるよう、一緒に頑張りましょう。楽しみにしています。よろしくお願いします。」


 まぁ、話すつもりだったことの9割以上は話せた。聞いている人たちが何を思ったかは知らない。保護者の中には腹を立てた人もいるかも知れない。だが、とてもよく聞いてくれたのは分かった。声をかけてくれた人(教員)も多少いたが、私として意外で愉快だったのは、放送部員としてマイクの音量調整などをしていた2年生の女子生徒が、一切終了後、にこにこ顔で、「平居先生らしくて、聞いててすっごく楽しかったぁ!」と言ってくれたことである。どう考えても、楽しい話だったとは思えないのだが・・・。