ザルツブルグのセル

 昨日は、母の生活支援のため仙台市郊外に行く際、車の中で1969年8月24日のザルツブルグ音楽祭のライブCD(ORFEOから出ている輸入盤)を聴きながら行った。これも、私がひときわ気に入っている「愛聴盤」というやつである。
 演奏しているのは、ジョージ・セル(指揮)、エミール・ギレリス(ピアノ)そしてウィーンフィル。曲目は全てベートーヴェンで、「エグモント」序曲、ピアノ協奏曲第3番、交響曲第5番「運命」。堂々たる王道である。セルは72歳、ギレリスは53歳。セルは翌年亡くなるので、正に晩年。円熟の極みでありながら、この時点ではまだまだ意気軒昂(翌年、死の2ヶ月前に万国博覧会の関連イベントでクリーブランド管弦楽団と来日した時の演奏も語りぐさ)。ギレリスは脂ののりきった時期である。正に「切れば血の噴き出るような」という表現がぴったりの、研ぎ澄まされた名演だ。
 ベートーヴェンのピアノ協奏曲は、「皇帝」と名付けられた第5番が最も有名で、第4番がそれに次ぐ。第4番を、5番を超える最高の名曲として挙げる人も多いように思う。「通好み」と言っていいかも知れない。それに比べると、第3番の評価はイマイチだ。若書きの第1番(書かれた順番からすると、第2番の後)の方が好まれているようにも思う。
 しかし、私は大好き。むしろ第4番は起伏に乏しく、つまらないと感じる。第1番、3番、5番は甲乙付けがたく、それぞれにそれぞれの良さがある。どれを高く評価するかは、それを聴く時の気分によって変わる。
 それにしても、このCDに収録された曲は、丸々ひとつの演奏会だ。それぞれの曲の後に、10~15秒ではあるが拍手も入っていて、録音時間は77分26秒。ギリギリとは言え、CD1枚にひとつの演奏会が収まっている。ほほぅ、通常2時間前後かかる演奏会も、実際に音を出している時間というのはこの程度のものなのだな、という思いを抱く。