津波注意報とJR

 トンガで大規模な海底火山の噴火があった。現地の人たちが無事かどうか、という心配とは全く別に、単なる自然現象としてだけ見ると、非常に面白いイベントであった。人工衛星から撮ったという噴火の瞬間、衝撃波が同心円状に広がってゆく。この影響による気圧の変化が日本でも観測されたことは、けっこう大々的に報道されていたが、今朝の毎日新聞によると、この空気の揺れは地球を3周し、したがって、日本でも気圧の変化は3度観測されたらしい。
 津波に関しては、そのメカニズムについてもまだ分かったとは言えないらしい。ただ、噴火の影響であることは間違いなく、しかも、噴火に伴う海底地形の変化により、地震の時と同様のメカニズムで発生したわけではないことは分かっている。
 圧縮された空気の揺れと言い、それによる津波と言い、そんなグニャグニャしてひずみが曖昧に拡散し、消えてしまいそうなものが、これだけ大きな作用を生んだというのは驚きだ。
 先週土曜日夜のTVのニュースで、日本への津波は来ないと言っていながら、深夜、突然サイレンが鳴り始めたのには驚いた。
 日曜日、朝起きてテレビのスイッチを入れると、どのチャンネルも津波情報で埋め尽くされていた。仙台行きの列車も止まっているという。
 私は、深夜のサイレン以上に驚いた。我が家から見える海岸通りには、いつもと同様に車が走っている。津波注意報が出たとは言っても、予想される最大値が1mでは、それも当然という気がする。にもかかわらず、電車は止まっている。幸い、日曜日だから良かったようなものの、平日だったら、私はぶうぶう言いながら車で出勤しただろうか?いやいや、電車が止まれば高校はたいてい休校になるから、私も年休取るぞ、となっただろうか?いやいや、私が車で通勤したところで、臨時通勤手当を出す気がないとなれば、その責任上、電車が止まることによって、私は自動的に休んでもいいことになるのだろうか?
 ・・・などなど考えていたのだが、そのうち、電車が止まっているということについて疑問が湧き起こり、腹が立ってきた。最近のJRの「安全優先」は異常である。
 予想される津波の高さは、最大で1mであった。仮にその倍の津波が来たとしても、私が見た感じでは、レールの高さに到達しない。仙石線は、松島湾岸に海岸線に近くて低い部分が集中しているのだが、なにしろ松島湾は入り口が狭く、奥が広い袋状の海である。入り口を通過した波は拡散し、高さを極端に下げる。湾の入り口に2mの津波が来たとしても、松島はせいぜい数十㎝のものだろう。
 報道によれば、仙石線は仙台~小鶴新田間だけ運転していたらしい。え?東塩釜じゃないの?仙台~東塩釜は複線、それ以北は単線なので、仙台~東塩釜間だけ極端に本数が多い。小鶴新田東塩釜間を、津波注意報で運休にしたのはミステリーだ。なぜなら、少なくとも海に近い場所はずっと高架だからである。湾の入り口に少なくとも東日本大震災の10倍以上の津波が来なければ、「危険」にはなりそうにない。他のいかなる交通手段も普通に動いているのに、電車という最重量級の機械だけが止まっている。どう考えても滑稽であり、むしろブラックジョーク、いや無気味で恐ろしいことに思われてきた。風でも雨でも、電車だけはすぐに止まる。公共交通機関であることの使命感、プライドはどこにあるのか?新幹線と在来線の定時運転に対するこだわりの格差も不愉快だ。
 電車で通勤・通学している人は、あきらめるか、車で行くか、高速バスで行くか、ということになるだろう。そして、鉄道に対する不信感を抱いてゆく。何もびくびくしながら電車を使うなら、最初から自家用車にしてしまった方がいい、と考える人がいても不思議ではない。あとは渋滞確率との比較だ。鉄道の衰退は、JR自身が招いている部分もあると見える。