塩釜神社の喜び

 生活改善運動=ダイエット宣言をしたのが、先月の28日。その後、言ったこと以上の努力をしていて、体重はまずまず順調に下がっている。毎日体重を量るようになると、一日一日の体重の増減が大きいことに驚かされるが、平均値を取って約1.5㎏の減といったところだろう。
 食べる量はかなり減らした。相当つらいだろうなぁ、と思っていたが、案外そうでもない。食べなければ食べないで済むものである。今までどうしてあんな意地汚い食べ方をしていたのだろう?と思う。
 前回宣言したこと以外にやっていると言えば、朝、駅から学校に直行するのを止めて、大きく回り道をするようになった。駅から直行すると10分。今は30分。迂回先は塩釜神社だ。
 我が家で子供たちが生まれた時、どちらも安産祈願とお礼参りはこの神社に行ったので、決して馴染みがないわけではないが、すぐ近くに勤務するようになっても、春に1度行ったきり、なかなか足を運べずにいた。
 駅前の道を北進して、神社の森の西南の角の信号を右折するとすぐに表参道の入り口に着く。大きな石鳥居があり、そこから杉林の中を、約230段の石段が本殿に向かってまっすぐ伸びている。これはなかなか壮観だ。幅の広い立派な石段である。通学路の一部になっているらしく、中学生の姿をよく見る。最近は11月としては珍しいほど冷え込む朝が続いているが、この石段を登り切る頃には体が温まっている。
 本殿の前で軽く一礼して右折し、舞殿(舞台)の前を通って東神門を出る。まっすぐ石段を降り、東参道を直進してもいいのだが、あえて左に曲がる。志波彦神社がある。隣には御文庫。前に立てられた看板の説明によれば、塩釜神社で最も古い建物であり、建築は室町時代に遡るという。鐘楼を改造したとかいう小さな書庫だが、いかにも古びていて歴史を感じさせる。
 その前から見る風景は、塩釜神社の境内で最も美しい。日本庭園が造られており、その東の方には、庭園越しに松島湾が見える。そこから少し目を北に転ずると、社務所があるのだが、これがいかにも寝殿造りの貴族の屋敷といった趣だ。この10日ほど、塩釜でも紅葉の盛りだったので、なおのこと風情がある。
 紅葉が盛りの一方で、社務所前には四季桜が1本あって、花を付けている。説明書きによれば、四季桜は春秋の2回花を開くが、秋は満開にはならず、五月雨式に咲くのだそうだ。
 駐車場を斜めに横切って、東参道に入る。井内石の美しい緩やかな石畳が続いている。少し急な石段があって、そこを右曲がりに下りていくとまた石鳥居があり、車道に出る。この右曲がりの石段の横に、風格のある大きな石灯籠があって目を引く。隣には、「芭蕉止宿の地」という碑が立っている。説明によれば、その昔、ここには法蓮寺という寺があって、奥の細道の旅をしていた芭蕉はここに泊まったのだという。寺があった当時の絵図は残っているが、どこに堂塔があったのか、面影はまるでない。
 そのスケールと、美しさにより、なるほどこれが「陸奥国一宮」であるのは不思議でない、と思う。晩秋〜初冬の凜とした空気。通学の中学生以外に、会う人は5〜6人に過ぎない。塩釜神社の境内を歩いているのは、せいぜい15分だが、もはや「ダイエットのために」という目的はどうでもよくなってきた。ただそこを歩くことが目的。実に手頃で気持ちのいい散歩道である。
 車道に出てからは西進し、学校の裏の坂を上る。本当は帰りも逆ルートで駅まで歩きたいのだけれど、それはなかなか事情が許さない。先日、少し早めに学校を出られた日、神社には上がらないまでも、少し遠回りして、車道から東参道と表参道の入り口を眺めつつ駅に行った。どちらの入り口にも菊のご紋章付きの立派な灯籠があるのだが、日没が早いため、既に火が入っていた。表参道は石段の両側にも、数mおきに建てられた石灯籠にほのかな明かりが入って、幽玄な雰囲気を作り出していた。薄暗くて、そこを上るのは少し気味が悪いけれど、この情緒もまたなかなかのものだ。