塩釜神社の桜

 石巻も塩釜も桜が満開。桜の花期は短いけれど、昨夕来、気温が低めということもあって、意外に粘って今週末も満開状態は維持されそうだ。我が家のお花見もいよいよ明日。今年も本物の「お花見」が出来る模様。
 昨日は、卒業アルバム用の写真撮影ということで、3年生全クラスが学校から徒歩10分の桜の名所・塩釜神社に行った。クラスの集合写真撮影が目的とは言え、ちょっとしたお花見遠足だ。気温も20度くらいあって、暑からず寒からず、とてもいい気持ち。
 塩釜神社は「しおがまさまお花見案内」というパンフレットを作り、無料配布している。境内のあちこちに「ご自由にお取りください」という形で置いてあって、簡単に手に入る。イラスト風のきれいな境内地図が描かれていて、どこに何という種類の桜の木があるか、その桜が一重か八重か菊咲きかというところまで記号で示してある。なかなか洒落たパンフレットだ。色合いも柔らかで、桜の季節に合っている。
 塩釜神社は、境内の木、特に桜については種類毎に説明看板を設置しているので、相当な種類の桜の木があることは、昨年11月から境内経由で通勤している私には分かっていた。とはいえ、それが何種類なのかまでは数えたことがなかった。「お花見案内」で見てみると、それは実に35種類(一重が14種、八重が18種、菊咲きが3種)だ。安直にWikipediaで「サクラ」を引いてみると、桜は「日本では固有種を含んだ10類の基本の野生種を基に、これらの変種を合わせて100種以上の自生種があり、さらにこれらから育成された園芸品種が200種以上あり、分類によっては600種ともいわれる品種が確認されている」とあるので、36種類はほんの一部に過ぎないが、それでもそれがひとつの神社の境内に咲いているとなると、多いという印象を受ける。なるほど、神社の社紋が桜なわけだ(ちなみに塩釜高校の校章も桜で、塩釜神社の社紋とよく似ている)。
 以前、何度か書いたことがあるが、私は、ソメイヨシノやしだれ桜という最も一般的な、花だけが一斉に咲く種類の桜はあまり好きではない。不自然な感じがする。私が一番好きなのは、山に登った時に見るミネザクラだ。繊細な感じがし、ひっそりと控えめで清楚。花と葉のバランスもほどよい。だが、塩釜神社であれ、我が家であれ、日和山であれ、盛んに咲いているのがソメイヨシノであったとしても、やはり美しいな、とは思う。おそらく、あの淡いピンクの色がいいのだな。なんとも日本的な、穏やかで優しい色である。
 写真撮影の後、45分間の自由時間があったので、前から気になっていた塩釜神社博物館という所に入ってみた。1階が神輿、日本刀、塩釜神社関係の古文書、2階が製塩と捕鯨という伝統的地場産業についての展示になっている。一度くらい入ってみるのはよいが、さほど充実した展示とは言えない。
 屋上が展望台になっている。松島湾がさぞかし美しく見えるのだろう、と思っていたが、残念ながら樹木に遮られてあまり見えない。屋上展望台の上に、更に4階に当たる一段高い展望台もあるのだが、そこに上っても同様である。ところが、むしろ桜越しに塩釜神社裏参道の鳥居や志波彦神社が見える山側の風景がよい。同時に、大きなソメイヨシノが屋上に向かって枝を伸ばしているため、桜の中に顔を突っ込むことができる。自分の周りの全てが桜になった感じで、なんとも贅沢だ。
 下から見上げて手を振ったり、声を掛けてくる生徒に適当に反応しながら、桜に顔を突っ込んで悦に入る自分を意識した時、私の頭の中に浮かんできたのは「花の本には、ねぢより立ち寄り、あからめもせずまもりて・・・」という『徒然草』(137段)の一節であった。ああ、私は「片田舎の人」なのだ。明日のお花見は「酒飲み、連歌して、果ては大きなる枝、心なく折り取りぬ」となりかねない。ま、楽しければいいさ・・・。


(注)「お花見案内」に載っている桜の中で、「塩釜ザクラ」という固有種(一部の木が天然記念物に指定=なぜ一部の木なのかは不明)だけ、一重、八重、菊咲きの分類が為されていない。塩釜ザクラは実物を見ると八重なので、八重に加えた。なお、塩釜神社の社紋は一般的な「サクラ」ではなく、塩釜ザクラであるという。