多部島巡礼(1)

 後期中間考査が終わった先週末、仙台で石田組に浮かれていたツケが回ってきて、土曜日は午後から出勤し、採点その他の雑務に没頭していた。
 そしてその翌日、つまり昨日の日曜日は、息子と多部(たぶ)島に行った。多部島とは石巻の沖に浮かぶ網地(あじ)島の映画「さよならほやマン」中での名称である。今はやりの「聖地巡礼」というやつで、ほやマンのロケ地を訪ねることにしたのだ。
 私がその計画を家族に明らかにした時、意外なことに、息子が「あ、俺も行く」と即座に言った。それくらい、彼にとっても映画は面白く、そのロケ地である網地島に興味を引かれたらしいのだ。天気予報を見ていると、「小春日和」と言ってよいほどの穏やかな晴れが期待できた。さぁ、行くぞ「さよならほやマン」の聖地。
 網地島に行くのは、約10年ぶりである。その間に、船が新造され、始発が門脇(かどのわき)桟橋から中央=石巻元気市場の隣に変わった。せっかくだから短い北上川クルーズも楽しもうと、最寄りの門脇桟橋からではなく、中央から乗ることにする。出港は9:00。
 外国人も含めて、乗船したのは70~80人といったところ。以前の船では、追いかけてくるウミネコに、かっぱえびせんその他の餌をやるのが楽しかったが、今回は誰もそんなことはしていない。たまたまなのか、船が速すぎてウミネコが付いて来られないからなのかは知らない。なにしろ往路に乗ったシーキャットという船は25ノット(46㎞/h)なのだ。風もほとんどなく、海はべた凪。遠ざかっていく石巻や、牡鹿半島の風景がとてもきれい。
 門脇からわずか25分で田代島の大泊、そこから更に数分で同じく仁斗田(にとだ)に着く。ここで3分の2以上の客が降りた。田代島は小さな島なのに、猫の島として有名になったおかげで、猫大好き人間がたくさん行くという話は聞いていたけれど、実際にぞろぞろと下船する人たちを見ていると、本当の話なのだなと驚く。恐るべし猫の力。しかし、船から見渡した範囲に、猫は1匹も見えなかった。
 仁斗田を出て10分で、網地島の網地に着く。私たちはここで下りる。
 網地島は6.5㎢、東西約6㎞の細長い島だ。人口は約280人。そのほとんどが高齢者で、小学生以下は3人しかいない。島には大きく分けて二つの集落がある。西端の網地と、ほぼ東端の長渡(ふたわたし)だ。両集落間の距離はだいたい5㎞くらい。島の中央を背骨のように立派な道路が通っていて、それら二つの集落を結んでいる。その道路沿いにある島の最高地点は100mだ。ちょうど真ん中付近に、網長中学校、網長小学校がある。網地島にどれくらいの子どもがいたのかは知らないけれど、どちらも鉄筋コンクリートの比較的新しい建物で、特に小学校はびっくりするくらい大きい。既に廃校になって久しく、中学校は「島の楽校」という野外活動施設、小学校は老人介護施設として利用されている。
 さて、どこがロケ地か、監督にでも聞こうと思えば聞けたのだけれど、小さな島だし、行けば分かるだろうと何の予習もしなかった。船着き場の隣が白浜というビーチで、そこが阿部兄弟がYou Tube動画「ほやマン」の撮影をした場所だ。網地島にはビーチが1ヶ所しかないので、それは簡単に分かった。
 仙台一高勤務時代2回目の網地島巡検で泊まった木村旅館を訪ねると、廃墟になっていた。ぐるりと回ってもう一度岸壁の方に行ったところで、人に会ったので、「ほやマン撮った家ってどこですか?」と尋ねると、「長渡(ふたわたし)だ。行けば簡単に分かっから」と言われた。最初からそのつもりだったのだが、ピクニック気分で長渡に向かう。せっせと歩くには、暑すぎず寒すぎず、とても快適。途中「絶景ポイント→」の看板があったので、寄り道する。山の中の道を700mも歩いてやっと着く場所だ。対岸に牡鹿半島の鮎川、十八成(くぐなり)浜がよく見えはするが、絶景ポイントというほどの場所ではない。網地島にはもっと景色のいいところが何カ所もある。(続く)