多部島巡礼(2)

 石巻から網地島に行く場合、時間を選択することはほぼできない。船の便が少ないからだ。9:00に石巻を出て9:54に網地(長渡なら10:08)に着く船で行き、13:30に網地を出るか(長渡には行かない)、14:51に長渡を出る船(網地なら15:12)に乗るしかないのだ。早い方の船なら滞在時間3時間半、遅い方なら約5時間である。長渡で下り、最南端のドワメキ(涛波岐)崎まで行き、縦貫道路で網地に行くというだけなら、3時間半で可能だ。しかし、途中で弁当を食べたり、寄り道したり、ぼやっと景色を眺めたりしようと思えば、3時間半は短すぎる。私たちも5時間コースのつもりで行った。
 すると、焦る必要はない。私たちは、阿部兄弟の家探しを後回しにして、ドワメキ崎を目指した。縦貫道路が左カーブで長渡に下って行くところで、私たちは縦貫道路を離れ、真っ直ぐドワメキ崎に通じる尾根道を行くことにした。すると、根組(ねぐみ)の集落(長渡と連続している)に入ったところで、あっさり「ほやマン(阿部兄弟)の家」を見つけてしまった。じっくり観察するのは後にして更に1㎞ほど歩き、ドワメキ崎に行く。
 ドワメキ崎もロケ地の一つだが、文句なしの絶景ポイントだ。前回、2014年6月1日に、当時まだ幼かった子どもを連れて行った時に、私は「地球の100分の1くらいを独占しているような気分」だと書いた(→その時の記事)。まったくその通りなのだ。灯台の手前左側に突起のような地形の場所があり、そこに上ると金華山が間近によく見える。
 網地から寄り道しながら2時間近く歩いて、時間もちょうど12時になったので、ドワメキ崎の四阿で昼食とする。水平線を自動車運搬船が進んでいくのが見える。人は誰も来ない。
 昼食が済んで少しすると、引き返す。船が出る時刻まではまだ2時間半もあるので、根組から長渡にかけてを歩き回ることにする。「ほやマンの家」にもじっくり立ち寄った。おそらく、ロケが行われたのは昨年の夏だろう。本当にここで撮影をしたのか?と思うほど、庭や家の周りは雑草が茂って荒れ果てていた。家の中はきれいにしてあったようだが、漫画家・高橋美晴がドリルで開け、阿部明がのぞいていた壁の穴はどこなのか分からなかった。違う場所で撮ったものを挿入したのかも知れない。
 荒井春子さんの家も分からなかった。作品の中では、ほやマンの家のすぐ近くのように描かれていたが、周囲によく似た家はなかった。
 その後、長渡に行き、これまたロケ地である郵便局など、集落内の細い道を歩き回った。長渡だけの話ではないのだが、空き家だらけだ。会う人はすべて老人。とても雰囲気がのんびりしていて、絶対に病気にならないというなら住みたいような場所である。船が出る時刻まではまだまだだと思っていたが、意外に時間は早く過ぎて行った。
 帰りはマーメイドⅡというフェリーである。早さは16.9ノット(31.3㎞/h)で、往路で乗ったシーキャット(25ノット)に比べるとかなり遅いはずなのだが、ものすごい水しぶきを上げながらけたたましく走る。シーキャットよりも速いのではないか、と思ったほどだ。朝に比べると風が出て、波が立ち始めていたこととも関係するかも知れない。乗降客がいないということで、田代島の大泊をスキップし、ちょうど日が暮れる頃、16:20に門脇桟橋に着いた。
 残念ながら、「さよならほやマン」が評判になって、私たちと同様にロケ地巡りをする人がいるようには見えなかったが、そんなちょっとした問題意識を持って離島を訪ねるというのも楽しいものである。天気にも本当に恵まれた。一高勤務時代に訪ねた網地島巡検を思い出すのも楽しかった。次は、30年あまり訪ねたことのない田代島を訪ねてみようか、と思っているところ。