熱演!カリンニコフ

 朝起きたら、驚くほど近いところに巻き網船が泊まっていた。非常に珍しいことである。網を入れるはずもないのに、曳舟を下ろしているので、何事かと思ったら、曳舟北上川に入ってきた。ははぁ、何かの事情で修理が必要となり、聖人堀鉄工所(→参考記事)に入るのだと分かった。聖人堀鉄工所は巻き網船曳舟のトップメーカーなので、何の不思議もない話だが、この地に30年近く住んでいて初めて見た光景のような気がする。

 今日は午後から仙台に出た。市内のアマチュア・オーケストラである仙台ニューフィルハーモニーの第74回定期演奏会を聴くためだ。いつも元同僚の楽員がチケットを届けてくれるので、時間の都合さえ付けば、せっかくだから行くか、ということになる。
 もっとも、今回は少し迷った。プログラムにラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が含まれていたからだ。偶然なのかどうか知らないが、この1年半で、この曲を聴くのは4回目になる。その間に、今回を除いてピアノ協奏曲を含む演奏会に行ったのは8回で、この曲以外の5回は、全て別々の曲であった。そんな中でラフマニノフの2番だけ3回(4回目)というのはなんだか異常だ。名曲であることは認めるが、第3番に比べるととても通俗的な感じがして、少し安っぽいとさえ思う。そこで、曲目を見た時、私は「えっ、また?!」と顔をしかめたのである。
 それでも、最終的に行くことにしたのは、アマチュア・オーケストラが好きだというのと、この曲の後に演奏されるカリンニコフの交響曲第1番に引かれたからである。行くことにした以上、ラフマニノフも独奏者による違いを楽しんでやろう、とは思った。今回の独奏は、キム・ジョンファン(23歳!)。昨年の仙台国際音楽コンクールで4位入賞というのが今回登場のきっかけだろうが、経歴を見ていると、若いにもかかわらずなかなかにすごい。本当に有能な人らしい。ちなみに、この1年半の過去3回というのは、小菅優小曽根真、角野隼人である。
 指揮は新田ユリ、冒頭にはグリンカ歌劇「リュスランとリュドミーラ」序曲が置かれている。この曲は大好き。序曲は予想通りに楽しかった。               
 さて、ラフマニノフである。すこし高めのピッチ(とどうしても聞こえる)で、成熟とかロシア情緒とかとは無縁の底の浅い演奏に思われた。演奏者の高揚が感じられて熱気を帯びてきたのは3楽章の半ば以降だったのではないか、と思う。そこからは本当によかった。まだまだ若いのだな。
 アンコールは3曲。最初はモーツァルトソナタハ長調K545の第1楽章。このような平易な曲でこそ、プロの技量は際立つ。提示部の反復もちゃんと弾き、しかもかなり自由に装飾を施すので面白い。2曲目はラフマニノフの「13の前奏曲」の第3番。ラフマニノフの協奏曲の後には、この曲こそがふさわしい。熱のこもった演奏。そして最後は、ショパンの「24の前奏曲」から第7番。これは口直しといったところか。
 カリンニコフは文句のない演奏だった。ほどほどに技量があってやる気満々というアマオケ、いや仙台ニューフィルの美点がよく発揮されていた。新田ユリという指揮者をライブで聴くのは初めてだったが、アマチュア相手だからか、動作の一つ一つが明瞭で、オーケストラを上手くコントロールしていたと思う。最後まで弛緩する瞬間というのがなく、特徴的な土俗のメロディーもよく唱えていた。
 私がカリンニコフという作曲家を知ってから10年あまり。ただし、2曲の交響曲しか聴いたことはなく、ライブとなると第1番だけ。おそらく今回が3回目である。それでも、今日の演奏などを聴いていると、この人が夭折したのはもったいなかったなと、つくづく思う。また、自分の交響曲が演奏されるのを聴いたことがなく、出版も見ることが出来なかったという作曲者の不幸は気の毒だが、作品は生き続け、演奏される機会はむしろ増えている。作曲されてから128年。おそらく、この交響曲は「古典」として生き残るだろう。
 アンコールとして、チャイコフスキーの「白鳥の湖」から、「情景」が演奏された。ご機嫌でホールを出た。