宇宙と数学(1)

 私は理科大好き人間なのだが、残念ながら、中学・高校時代から、数学という教科が甚だ苦手であった。勉強していてつまらないとは思わないし、物理は得意科目だったのに、なぜか数学がまったくできない(試験で点数が取れない)。そのため、大学では文系学部に進まざるを得なかった。
 高校時代には、ほとんど大学入試のための道具でしかなかった数学だが、大人になってからは、この世にたくさんいる数学者たちが、いったい何をしているのだろう?と思うようになった。いつまで経っても研究することがある、ということも理解できないし、そもそも数学の論文というものがまったくイメージできない。数学というのはなんとも得体の知れない、非常に抽象的な、何の役にも立たない純粋学問であるように見えた。
 さて、私が毎週欠かさず見ているテレビ番組の一つに、「笑わない数学」というものがあった(NHK総合・・・なのに、再放送はEテレという変わり種)。数学史上の難問と解決の歴史を、俳優の尾形貴弘(パンサー尾形)が解説するという30分番組である。回によって温度差はあるが、これが滅法面白い。第1シリーズから通算で20回続いて、一昨日終了した。参考までに、取り上げた数学上の問題を紹介しておくと次の通りだ。

〈第1シリーズ〉
「無限」「4色問題」「P対NP問題」「ポアンカレ予想」「虚数」「フェルマーの最終定理」「カオス理論」「素数」「abc予想」「暗号理論」「確率論」「ガロア理論
〈第2シリーズ〉
「非ユークリッド幾何学」「コラッツ予想」「1+1=2」「結び目理論」「超越数」「ケプラー予想」「1+2+3+4+5+・・・=-1/12」「BSD予想」

 あちらこちらで論理が飛ぶし、番組が進む早さに私の悪い頭が付いていかないという恨みはあるのだが、一般市民が本質を理解できるようにすることを優先させようとすれば、前者は仕方がない。しかも、そのような点を実にさりげなくごまかしていて、視聴者を上手く煙に巻く。また、後者については、文明の利器=ビデオデッキに頼れば解決する。すなわち、録画しておいて、途中あちこち止めながら、自分の頭の回転の速さに合わせて見ればいいのである。
 今日は、その中から「素数」と「超越数」に関する回を紹介しよう。ただし、私がなぜそんなことをするかということは、最後に明らかにする。
 まず「素数」である。私が一見して、最も面白いと思った回かも知れない。言うまでもなく、素数とは「1とその数以外では割りきれない数」であり、今でも、世界中の素数ファンが、新しい素数を求めて活動しているらしい。
 レオンハルト・オイラー(スイス、1707~1783年)は、素数とπ(円周率)が関係することを発見した(番組では「素数は宇宙で最も美しい形=円とつながった」と表現する)。それによって、世の数学者たちは、素数がただの無秩序な存在ではないかも知れない、と感じるようになった。
 カール・フリードリヒ・ガウス(ドイツ、1777~1855年)は、素数がe(自然対数の底)と関係することを発見した。これらの発見によって、素数は自然界の重要な構成要素であると認識されるようになった。
 更に、ゲオルク・フリードリヒ・ベルンハルト・リーマン(ドイツ、1826~1866年)は、素数に関するゼータ関数(これは先週の「1+2+3+4+5+・・・=-1/12」にも登場!)によって値がゼロになる点(ゼロ点)を求めてグラフ化すると、その点は一直線上に並ぶということを見出し、それはリーマンが実際に計算した素数についてだけではなく、いかなる素数についても言えるのではないかという仮説を立てた(リーマン予想)。これは、素数に理想的、かつ完璧な調和が存在するということである。
 時間は一気に飛んで1972年、アメリカのプリンストン高等研究所で、物理学者フリーマン・ダイソンが数学者ヒュー・モンゴメリーとの会話の中で、ゼロ点の間隔を表す式が重い原子核のエネルギーレベルの間隔を表す式とそっくりであることに気付いた。これは、素数と宇宙の法則とは関係があるのではないか、という発見であった。(続く)