MOROHA

 どうやら、石巻の映画館でも「さよなら ほやマン」の上映が終了してしまったようだ。「1ヶ月続いてよかった」とは言えない。全国紙の映画評で取り上げられ、見た人の評判もあって、だんだんお客さんが増えていくという理想型からすれば、残念なことである。
 ところで、「さよなら ほやマン」をきっかけとして、多部島こと網地島を訪ねたという話は先日書いた。映画をきっかけにしたこととしてもう一つ、MOROHAのCDを買った。MOROHAとは、言うまでもなく、「さよなら ほやマン」で主役(阿部明)を演じていたアフロというmc(ラッパー)が、高校時代の友人と二人で作ったユニットである。映画を見て、いかにも純粋で熱い人間に見えたので、彼が日頃どのような音楽活動をしているのか、それを見て監督がどうしてアロハに目を付けたのか、考えてみたくなったのだ。
 買ったのは「MOROHA BEST~十年再録」というベスト盤。12曲、クラシック以外では珍しく、72分も収録されている。
 一度聴いて、なんだかすごいなと思った。先日、羽黒山に行った時には、往路で1回、復路で1回聴いた。あまりにも力が入っているので、聴いていると疲れてしまい、それ以上聴くことができなかった。「疲れる」というのは、決して悪い意味ではない。あまりにもすさまじい熱量に、圧倒されてしまう感覚である。
 今回の目当てはアロハだが、相棒のギタリストU・Kも素晴らしい。ラップの伴奏ということで、単調な刻みになりかねないが、そこは上手く変化を付け、しかも正確にリズムとメロディーとを刻んでゆく。実に上手い。
 ラップだからということもあるだろうが、どの曲も歌詞がとても長い。こんな言葉を正確に覚えていて、2時間のライブで歌い続けられるものなのだろうか?いやいや、歌詞を暗記しているとは限らない。譜面台に歌詞を置いてやっているかもしれない。
 オマケでDVDが付いている。「初恋」という映像作品だ。エリザベス宮地という人が、MOROHAのメンバー二人に、初恋の思い出を語らせ、相手を探し出して対談させるというものだ。面白いものではないのだが、作品の最後に、MOROHAの二人が母校の文化祭に呼ばれ、軽音部の部室か、文化祭で軽音部が割り当てられた教室のような所で、にわかに1曲歌う(語る)シーンが収録されていて、そこだけは面白い。本当に何も見ずに、歌詞を暗記して語っている(多分当たり前なのだ)。母校の文化祭、狭い会場であるにもかかわらず、手抜きは一切ない。
 私がMOROHA(アフロ)に魅力を感じたのは、ただ単に力がこもっている、熱い、というのではない。格好付けることなく、本当に自分の本音をさらけ出しているように感じられるからだ。しかも、歌詞の内容は生きて歌うことの原点に忠実というか、本質的だ。本物を追い求めている、と言ってもいいだろう。一例を挙げる(「二文銭」より)。


毎回のライブが最初で最後
だからびびってる余裕なんてないんだよ
出し切るのは練習の成果じゃない
生きてきた人生まるごとだ
こなすライブでギャラさらう大物や
キャリアのみで物言うベテランを見て
ヤバくはなっても偉くはならない、一生若手と強く誓った
空っぽのフロアにも歌い続けた
足りないのは友達?顔出し?
それは実力がない奴の言い訳だ
悔しさが嗚咽のイントロになった
友達じゃないファンとして来てる
あいつの一言にどれだけ救われたんだ
あの時踏んだ地団駄がいつも間にやら地面を固めた


 録音を聴いていて、ラッパーとしていくら魅力的だと思っても、俳優経験のないアフロに役者として目を付け、主役に据えるというのは飛躍が大きすぎる。やはりそれは監督・庄司輝秋の慧眼としか言い様がないのであろう。
 MOROHAのライブには行ってみたいなぁ、と思う。