中野りな!!(仙台フィル第370回定期)

 昨晩は、1月14日に放映された「クラシック音楽館」、昨年11月23日に東京・サントリーホールにおけるベルリンフィル演奏会の録画を見た。指揮は首席指揮者のキリル・ペトレンコ、曲目はモーツァルト交響曲第29番、アルバン・ベルク管弦楽のための3つの小品、ブラームス交響曲第4番である。ペトレンコは、昨年末の回顧番組か何かで、ほんの少しだけ見たことがあったが、これだけじっくりとその指揮ぶりを見たのは初めてである。とても純粋、ひたむきな人に見えた。今自分が振っているのが天下のベルリンフィルだという意識すらなく、無心に音楽と向き合っている感じで好感が持てた。
 第29番は、第36番と共に、私が最も好きなモーツァルト交響曲である。若々しく明るくてしなやか。モーツァルトが、今の私が受け持っている生徒と同じ18歳でこの曲を書いたことは、いくら驚嘆してもしきれない驚異である。言うまでもなく、ベルリンフィルの演奏は完璧。ただ、本当はもっと小さなアンサンブルで演奏した方が、その名人芸が際立つと思うけど・・・。ベルクは、ベルリンフィルの圧倒的な能力を見せつけるために用意されたかのようだ。それからすると、ブラームスは普通の演奏。目隠しして、N響の演奏を聴かされても、おそらく私には分からない。
 それにしても、チケットはおそらく4~5万円したであろうに、サントリーホールがほとんど満席というのにも驚く。私には無理。

 

 今日は、仙台フィルの第370回定期演奏会に行った。指揮は高関健。曲目は、芥川也寸志「交響管弦楽のための音楽」、シベリウス・ヴァイオリン協奏曲(独奏:中野りな)、ドヴォルザーク交響曲第6番。全て私の大好きな曲だ。ドヴォルザーク交響曲は、有名な第8番、第9番よりも、第6番、第7番の方が俗臭がなくて魅力的である。仙台フィルにしては珍しく、席は9割以上埋まっていた。
 それはともかく、なにしろ、高関健である。間違いのあろうはずがない。芥川からドヴォルザークまで、一瞬の隙もなく、オーケストラをコントロールしていた。正に「名匠」。それ以外の言葉が見当たらない。氏の楽曲研究の深さはつとに有名で、オーケストラに対する指示も実に細かいが、だからといって、オーケストラのメンバーが窮屈さを感じたり萎縮したりせず、大変な喜びをもって演奏しているように見える(聞こえる)ところが、高関氏の偉大なところである。ただ、それは予想(期待)の範囲。今日のお宝はヴァイオリンの「中野りな」であった。
 現在、まだ19歳。2021年に日本音楽コンクール、2022年に仙台国際音楽コンクール(SIMC)を制したという経歴は、決して何かの間違いではない、と思った。多少線の細さは感じるものの、非常に完成された立派な音楽である。ITOHから貸与されているという1716年製のストラディバリウスを美しく響かせながら、技術的にも優秀で、数あるヴァイオリン協奏曲の中で、私がベートーヴェンの次に好きなシベリウスを、満足すべき水準で聴かせてくれた。
 4年ほど前、SIMC・ヴァイオリン部門の入賞者によるガラコンサートに行って、私は「日頃私が演奏会に行った時に目の当たりにするプロは、このようなコンクールでの入賞歴の上に経験を積み重ねてステージに立っているわけだから、コンクールに入賞したばかりのいわば「新人」に物足りなさを感じるのは、当然と言っていいかもしれない」と書いた。その年は優勝者がなく、2位が最高位で、2位だったシャノン・リーは、まずまずの演奏だったのだが、それでも、私の感想としては「こんなもんか?」であった。中野は違う。伸びしろも考えると、これはなかなかの逸材であると思った。
 アンコールはバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番の第4楽章。オーケストラが音を出さない静かなホールに、バッハのアレグロが疾走する。この人の演奏で、バッハの無伴奏ソナタ&パルティータを全曲通しで聴いてみたい。強くそう思った。え?アンコールではなくて、プロモーションだったのかな?