仙台へ、私立へ

 先週の金曜日に、公立高校への出願が締め切られた。翌日の河北新報で大きな見出しになっていたことだが、全日制の平均倍率は1.00倍。とは言え、四捨五入の関係で1.00倍=募集定員と出願者数が同じとなるものの、実際には出願者数の方が全県で31人少なかったようだ。
 なにしろ少子化の進行が早いので、県は今年も全県で3学級=120人の定員を減らした。それでも追いつかない。問題は少子化だけではない。今春の中学校卒業予定者が19,689人で、公立高校への出願者が、全日制と定時制を合わせても13,993人ということは、約5,700人が公立高校を受けない、ということになる。もちろん、高校進学率は100%に近いだろうから、その5,700人は私立高校に進学するはずだ。
 更に言えば、地区ごとに見てみると、亘理・名取地区、仙台南地区、仙台北地区、塩釜地区という、仙台市とその周辺だけが1倍を超え、他地区は全て1倍未満である。では、仙台地区で不合格になった人がどこへ行くのかと言えば、地方の高校の2次募集ではなく、矢張り私立に流れるに違いない。
 私が子どもの頃なら、私立は滑り止め。少し怖い生徒もいたりして、行くのが恥ずかしいと感じる人が多かった。ところが、私立高校のイメージアップ戦略の成功と、年収約600万円未満の世帯から進学する場合、国の就学支援金によって授業料が実質的に無償化されたこととによって、多くの生徒が私立に流れるようになった。私立に行くことに抵抗も支障もなくなってしまうと、公立高校の出願は強気になる。すると、仙台市内の生徒がわざわざ郡部の学校を受ける必要はない。
 石巻地区では、1倍を超えた学校が1校だけ。それとて、160人定員に161人出願したというだけである。他は全て定員割れ。我が石巻工業高校でも全体で0.84倍である。昨年は1倍を超えていたのが、今となっては信じられないほどの落ち込みだ。仙台市内で、1.2倍、1.3倍を超える学校が珍しくない中で、郡部ではもはや0.5倍を切る学校さえ珍しくない。仙台とそれ以外の格差は、なし崩し的に広がってしまった。当然のこと、地方の高校では大学進学もままならないという危機感が生まれ、仙台指向、私立指向は更に強まるに違いない。
 驚くには値しない。15年前に普通科の学区制を全廃し、全県一学区にした時点で、既に予想できたことである。私学への進学者に対する金銭的支援が大きくなった関係で、仙台集中への加速が予想よりも少し早まった、というくらいのものだろう。
 規制を緩めれば、強きはますます強くなり、弱きはますます弱くなるという自然法則そのものだ。県の中枢にいる強い立場の人間が制度設計をするのだから、県はそんなことにはまったく問題を感じていないだろう。
 これによって、郡部の高校が衰退するだけでなく、郡部から仙台に通学する生徒の時間的、肉体的、精神的負担の大きさを考えると、県全体でどれほど多くのものを失っていることか、と私なんかは思う。少人数学級が実現していいね、という考え方も出来るが、定員を満たしていない学校には学級減や統廃合の話がやって来るし、落ちこぼれ意識を持って学習意欲を失った高校生が増えたりしたら、デメリットは少人数学級のメリットを上回る。
 廃止される時に散々危惧していたことだが、やはり、学区はあった方がいい。どの生徒も、自転車で通える近くの高校で、一定以上の質の教育を受けられるということが、長い目で見れば誰にとってもいいはずだ。