パガニーニの衝撃!



 具合の悪いことだらけである。

 腰痛がひどい。1月6日の記事で、C型肝炎が治ったら腰痛も良くなった、と書いた直後からのような気がする。皮肉なものである。少し良くなりかけたかと思ったら、またぶり返す、の繰り返し。せっかく春なのに、走りにも行けないし、花粉症でくしゃみをする度に激痛が走るし、生きる意欲すら失いそうだ。明日は入学式の振り替え休日なので、一度病院に行ってみよう。

3月22日に、固いものを無理して食べたわけでもないのに、突然、奥歯が欠けた。欠けた歯の断面を見て、危ないな、と思った。翌日、学校の近くの歯科医院(前々任校の部活OBとして旧知)に駆け込んだところ、案の定、進行した虫歯だという。よく今まで痛まなかったものだ、と感心されてしまった。4月4日に神経を抜いた。患者として世話になったのは初めてであるが、治療の丁寧さには感動した。これからしばらく、歯科通いが続く。いくら治療が丁寧で、痛い思いをほとんどしないとは言っても、やはり憂鬱である。

 自宅PCの調子が、非常に悪い。先日、一度ウィルスに感染して以来、それまでも重かったウィルス対策ソフトがますます重い。それが動いている限り、一つの画面の切り替えに10分近くかかるという有様で、まったく仕事にならない。ブログの更新が滞るとしたら、それはPCの事情による、と思ってもらうといい。

 あまりに話が暗いので、全然違う話にする。

 昨日は、午前が始業式、午後が入学式だった。なぜ土曜日かというと、居候している石巻北高の体育館で行うためには、そうするしかなかったからである。水産は土曜日、北高は月曜日という棲み分けだ。

 私は、入学式を欠席して組合の会議に出ると、夜は、「トヨタ・マスタープレイヤーズ・ウィーン」というアンサンブルの演奏会に行った。1997年から、トヨタメセナとして行われているもので、今年、仙台では5回目となる。名門ウィーンフィル(第1回だけはベルリンフィル)のメンバーを中心とする臨時編成の小オーケストラであるが、何しろ名手揃いなので、アンサンブルが素晴らしい上、チケットがひどく安い。

 ただ、なんだかメンバーの中でウィーンフィルのメンバーの占める割合がずいぶん減ったような気がしたので、気になって、我が家に残るプログラムで調べてみたところ、1997年は、25人のメンバーのうち、ベルリンフィルの正式なメンバーが22人(88%)、2000年は30人中ウィーンフィルの正式なメンバー(=国立歌劇場だけの人や客員を含まない)は21人(70%)、2002年は29人中15人(52%)、2009年は30人中15人(50%)、そして2012年は30人中13人(43%)である。つまり、確かに、母体となるオーケストラのメンバー占有率がどんどん下がっている。どういう事情によるのかは知らない。とはいえ、正式なメンバー以外でも、ほとんどの人は国立歌劇場管弦楽団ウィーンフィルとメンバーの多くが重複する)のメンバーだったり、ウィーンフィルの補助団員だったり、客員経験があったりするので、私如きの耳で、演奏の質の低下を感じることなどはまったくない。温かくふくよかで一体感があり、ただただ素晴らしい。

 ところで、プログラムの一つとして、モーツァルトのバイオリン協奏曲第2番が演奏された。独奏者はウィーン音楽大学に在学する19歳の日本人、知名度急上昇中の三浦文彰であった。独奏者として特別に素晴らしいとは思わなかったが、アンコールを聴いてびっくり仰天。なにこれ?本当に「曲」なのかな?と、口をあんぐり開けて見ていた。音楽としての構造とか、旋律とかが存在するのかどうかもよく分からず、まるでサーカスを見ているようだった。左手の指4本でピチカート(弦をはじく)をしながら、弓も弦の上を滑っているのである。開放弦の音ばかりではなかったと思うが、とにかく左手のピチカートが多いので、どこでどうやって音程を作り出しているのか、見ていても皆目見当がつかなかった。私は、技術をひけらかすために、演奏者自身が作った「音楽」としては無意味な「サンプル」とも言うべき作品なのではないかと思ったほどである。終わった瞬間、会場からは拍手の前に大きなどよめきが起こった。珍しい。

 終演後、会場の出口に、アンコールの曲名が掲示してあった。「パガニーニ『ネルコルピウ変奏曲』」とあった。「ははぁ、なるほど、これこそがパガニーニか・・・」と思った。ニコロ・パガニーニ(1782〜1840)は、「悪魔のバイオリン弾き」とか「バイオリンの鬼神」とか呼ばれていた、バイオリン音楽史上非常に有名な人である。演奏も作曲もした。ところが、私が聴いたことのある彼の4つの「バイオリン協奏曲」とか「独奏バイオリンのための24の奇想曲」とかでは、人々を興奮のるつぼに投げ込んだと言い伝えられているような異常さや、悪魔的な響きというものはほとんど感じられない。正直、「パガニーニがどれほどのもんか?」と思っていたのである。

 この演奏を見て(←「聴いて」ではない)、ようやく合点がいった。パガニーニは確かに、「悪魔のバイオリン弾き」なのである。私は、それを「音楽」として高く評価はしないが、エンターテインメントとしては価値がある。恐るべしパガニーニ!!