舞台裏が気になる人間



 しばらく前の話になるが、ちょっとした事情があって、Dreams come true(ドリカム)というグループのコンサートプログラムをパラパラと見ていた。私だってドリカムの音楽くらい多少は聴いたことがあるが、吉田美和というボーカルの声の質がまったく私の趣味に合わないし、いかにもアメリカ下町風のスイング感が苦手なので、プログラムを見ても、楽しそうだなあ、などとは全然思わない。吉田が空中を飛ぼうが、中村が滑稽な出で立ちで登場しようが、面白いと思うこともない。

 しかし、である。この巨大なイベントがどのように企画され、どれだけの人がどれだけの創意工夫と努力をしながら支えているかということについては、並々ならぬ興味関心を持つのである。コンサートを見に行きたいとはゆめゆめ思わないが、準備の過程にはことごとく立ち会い、見てみたいと思う。これは、もちろん、ドリカムのコンサートに限らない。私という人間は、どうしても本番よりも舞台裏、結果よりも過程に興味を持つひとつのタイプのようだ。

 先週の土曜日にNHKで放送された『東京駅復活大作戦』という番組を、録画してあったのだが、今日になってようやく見ることが出来た。言うまでもなく、今月1日に、98年前に完成した時と同じ姿に復元された東京駅の、歴史や復元工事の舞台裏を見せてくれるという番組である。これほど私の好奇心を刺激する番組というのもない。

 番組の最初の方で、東京駅を移動させることなく、仮設の柱で支えながら免震装置を組み込んでいく話などは、そんな私にとって、正に「有難い(=貴重な)」ドラマだったが、残念ながら、その後はいささか物足りなかった。

 東京駅の地下には、おびただしい量の線や管が埋まっていたはずで、それらを移したり避けたりしながら工事をするのは、それだけでも気が遠くなるほど大変な作業だし、列車の運行や乗客の移動といった駅の機能を確保しながらの作業というのも、これまた綿密な計画と多くの知恵なくしては実現しなかったことであるに違いない。ところが、番組では、それらの地味な部分にはほとんど触れていなかった。(昨年7月28日に書いた東京スカイツリーに関する番組と同様)

 歴史書を読んでいるとよく思うことだが、歴史家や作家が、歴史というものを咀嚼しながら面白おかしく書いた本よりも、淡々と事実が羅列されているだけの生史料の方が面白い場合は少なくない。我が国で言えば『吾妻鏡』、中国で言えば青史の本紀などがその代表格と言えるだろう。

 番組では、5人のタレントが出演し、クイズとドラマを差し挟みながら話を進めていた。おそらくテレビには、一般的日本人を視聴者として想定しながらの役割というものがあり、詳細で煩雑な記録は、むしろ書物の役割として期待されているのかも知れない。しかし、映像があるというのは素晴らしいことである。そして、映像があるからこそ、一見地味な舞台裏でも、一般の人が関心を持って見ることが出来る、そういうものなのではあるまいかとも思った。もっと淡々と、大規模若しくは特殊な工事の隅々を追った番組を見てみたいものである。マニアックではあるかも知れないが、案外、多くの人が好意的な反応を示すのではないか、とも思う。