阪急電車大好き!・・・「美」は単純な洗練の中に



 日曜日は、私の「学術」に関連して、見ず知らずの某ご老人からお話を伺う約束をしていたので、朝から三宮に行った。

 大阪から三宮まで、行きは阪神電車、帰りは阪急電車と決めていた。阪神電車は、甲子園で高校野球をしている時期に乗ってみたかったから、阪急電車は私の最も好きな電車だからである。

 阪急電車は本当に美しい。ただの通勤電車だし、外形としては何の変哲もない箱形の電車なのであるが、配色の妙というのであろうか?外側はマルーンカラー(濃い小豆色)単色、内側は淡い木調のパネルと深いグリーンのシートである。内も外も、何とも上品で落ち着いた、飽きの来ない色である。その電車が常に美しく洗車されて、標準軌(1435ミリ=新幹線と同じ)の幅の広い保線の行き届いたレールの上を、あまり揺れることもなく滑るように走る。最近は、JRも努力して、ずいぶんスムーズに走るようになったが、昔はその差が歴然としていた。神戸線は、神戸の山手の比較的高級な住宅街を走ることもあって、心なしか客も上品である。

 美しいなあ、美というのは凝ったデザインや高価な美術品の中にあるのではなく、このような日常の単純な洗練の中にこそあるのだ、と納得させられる。阪急電車に乗ることは、私にとって非常に気持ちのいいことなのである。

 昼には用事が済んだ。夜は名古屋で酒を呑むことにしていたので、大阪からJRに乗り換え、新快速で草津へ、そこから草津線で貴生川(きぶかわ)まで行き、近江鉄道米原へ、もう一度JRに乗り換えて名古屋に出た。

 近江鉄道は、新幹線に乗っていると米原付近からその線路が見えるのだが、一度も乗るチャンスがないまま、今に至っていた。電化はされているが、単行運転(1両だけ。ただし、2両編成もあるようだ)で、本当にガタガタの田舎電車である。貴生川〜米原47.7キロを93分かけて走った。平均速度は30キロ強である。風景も印象的なものは何もない。

 車内アナウンスを聞いていて、地名の発音だけが面白かった。

 「豊郷(とよさと)」は、頭の「と」にアクセント、「高宮(たかみや)」は「た」にアクセント、「鳥居本(とりいもと)」は最初の「と」だけが低くて、「りいもと」が全て高い。滋賀県というのは、ごく普通の(?)関西イントネーションの世界で、基本的に後の方が高く発音されると思っていたのだが(「豊郷」「高宮」は東北と変わらず、「よさと」「か」が高く、「鳥居本」は「い」にアクセントが普通か?)、独特だった。地元の人が本当にそのように発音しているのかどうか?それは分からなかったけど・・・。

 米原で20分ほど待ち合わせ時間が合ったので、駅前に出てみた。本当に何もない町である。シャッターストリートさえない。かろうじて、スーパーマーケットが一件だけあった。ということは、商店が校外に移転したから中心部が空洞化した、というわけでもないようだ。東海道本線北陸本線の分岐点(古くは中山道北陸道の分岐点=米原宿)だからそれなりに大きな駅があるだけといった感じだった。北陸本線の特急列車が、現在は大阪や名古屋始発で、しかも大阪方面からの列車は湖西線を経由し、米原は通過すらしないわけだから、その地位の低下たるや著しい。新幹線の駅があるとは言え、大半の新幹線は通過してしまう。私がいた20分あまりの間にも、通過する列車ばかりが多く、止まった新幹線は1本もなかった。がらんとした街も寂しいが、そちらの方も寂しかった。