スーパーキッズ・オーケストラ



 昨日は、子供の手を引いて、石巻市総合体育館で行われた佐渡裕指揮のスーパーキッズ・オーケストラ他の演奏会に行った。なんと言っても佐渡裕だし、無料の演奏会なので、ものすごい人だろうと覚悟して行ったが、実際には4割くらいの入りだった。気の毒。

 佐渡登場の前に、石巻市交響楽団やPPP(パーカッション・パフォーマンス・プレイヤーズ)という5人組の演奏があった。失礼ながら「前座」である。しかし、プロであるPPPの演奏(パフォーマンス)はなかなかよかった。もっとシロフォンの演奏を聴かせてくれればなおよかったのに、と思った。とはいえ、佐渡裕目当てで集まった人が大半のはずなのに、これらが1時間40分も続くというのは少々つらい。

 満を持して、佐渡と、彼が手塩に掛けて育てているという「スーパーキッズ・オーケストラ」が登場した。プログラムは事前に発表されていなかったが、最初は、ホルストの『セントポール組曲』、次がレスピーギの『リュートのための古風な舞曲とアリア』第3組曲のイタリアーナ(?)とパッサカリア、最後がチャイコフスキーの『弦楽セレナーデ』のエレジーと終曲だった。子供が限界だったので、この後のアンコールや石巻市交響楽団との合同演奏は聴かずに会場を出た。

 私はこんなオーケストラの存在を知らなかったのだが、結成して10年、全国からの公募で、厳しいオーディションに合格して選ばれた、高校3年生以下の子供たちによる弦楽オーケストラだそうだ。下の年齢制限はないが、現団員の最年小は小学校3年生らしい。一聴して、その豊かな響きに圧倒された。ドイツかチェコの大人のオーケストラみたい!しかも、ピアニッシモが美しいというのがすごい。正に「スーパーキッズ」であり、本物である。隅から隅まで神経が行き届いた感じの、本当に素晴らしい演奏を聴かせてくれた。全員が優秀な音楽家の卵なのだろうし、子供たちのアンサンブルをこれだけのものにする指揮者の本気度も推察された。

 今の日本には、特にスポーツや芸術で、このように才能を開花させている子供がたくさんいるのだろうと思う。その多くは、私が子供の頃であれば、その生活環境の貧しさから、チャンスを得ないままに大人になったのだろう。幸せな時代である。スポーツや芸術、学問といった分野で、一度一流のものに触れて価値に目覚めてしまうと、その世界にどっぷりと浸って、技を極めたくなるものだと思う。そのままプロへの道を歩む子供も多いのだろう。「スーパーキッズ・オーケストラ」クラスであれば、それでいいのかも知れない。しかし、そんな道を進む人が増えすぎることはよくない。

 水産高校の宣伝で私がよく言うとおり、人間は生き物として、まず「食べる」ことを疎かにしてはいけない。それに関わることを軽んじてはいけない。地に足の着いた堅実な生活をした上で、趣味で高いレベルの音楽を楽しめる人が生まれるのが一番いい。その意味では、スーパーキッズ・オーケストラの引き立て役にしかならず、正に「前座」に過ぎなかった石巻市交響楽団こそ、音楽のあるべき姿を表していたようにも思われた。