紙の地図がなくなる!?



 昨日から今日にかけて、他校の山岳部の生徒を引率して、蔵王に行っていた。

 昨日は、澄川スキー場から刈田岳を目指したが、悪天候のため、頂上を目の前にして撤退した。1〜2月の蔵王というのは、月のうち25日くらい吹雪いていて、私も生徒を引率して頂上に立てたのは2〜3度しかない。昨日も、ハイラインの入り口まで行った時点で、とても頂上には立てないだろうと分かったのだが、そこから少し上るごとに風雪がどれくらい強まるか、冬の山というのがどういう所なのかを実感させておくのもよかろう、ということで、あえて上を目指した。そして、やっぱりダメだった、ということである。

 夜は、予定通り仙台一高井戸沢小屋に泊まった。私も、この10年余り、ほとんど毎年、成人の日前後に井戸沢小屋に入るが、今年は最高の積雪量である。小屋の1階の窓がほぼ全て雪で埋まっていた。大雪だという報道をあまり耳にしていなかったような気がしていたので、これは意外だった。

 だらりとした特徴のない尾根の中ほどにあるこの小屋を冬に見つけるのは、なかなか難しい。エコーラインから夏道に入った所でコンパスを振り、後はコンパスと勘に頼って探すしかない。昔、この尾根には、刈田山頂から聖山平にかけてスキーのツアーコースがあったため、その名残の看板(丸い板に数字が書かれている)の打ち付けられた木が幾本か残っている。井戸沢小屋はこのツアーコースのすぐそばにあるので、この看板を見つけられると、ああ、ルートは間違っていないのだな、と安心できる。だが、今年は雪が多すぎて、木が看板ごと雪にすっぽりと埋もれている。そのため、今年は、歩きながら特に大きな不安を感じていた。

 年配のOBであるF君が同行してくれていた。前を歩いている私に、時折、最後尾にいるF君が意見を述べてくれるのは甚だ心強い。だが、それにしても、ずいぶん確信に満ちた、具体的で細かい物言いだな、と感心していたところ、井戸沢小屋を見つけた後でF君が見せてくれたのは、彼の持つスマホに映ったGPSの画面であった。地図とコンパスを見ながら、緊張に満ちた判断を繰り返していた私の後で、彼はスマホを見ながら、小屋が見つからなかったらどうしよう、などという不安など微塵も感じることなく、余裕綽々で指示をしていたわけだ。

 それを見ていた顧問のI先生が、来年は部費でGPS専用機を買おうかな、と言うので、私は、「止めた方がいいですよ。文明の利器を持つと、生徒はまじめに読図なんてしなくなるし、GPSに頼れば、電池が切れたり、谷筋のような電波の入らない所ではどうにもならなくなる。生徒の安全確保のために、どうしても持つというのなら、生徒にその存在を知らせず、先生だけがこっそりと見ることですね・・・」と言った。だが、携帯電話にしても臓器移植にしても、一旦手に入れた技術を使わないことは、人間にとって本当に難しいことだ、ということはよく分かるので、やがて人々はGPSに頼り切りになり、私のような考え方はノスタルジーだということになるのだろう。

 こんな話をしていたところ、やはり同行していたM医師が、「国土地理院はもう25000分の1地形図を廃止するみたいですよ。更新は5年ほど前に既に停止したという話を聞きましたけど・・・」と驚くようなことを言う。M医師も、国土地理院が紙の地図を今後どうしようとしているのか、ということまでは知らないようだった。やれやれ・・・。

 話を元に戻す。

 山小屋の夜は快適だが、外では雪が降りしきっていた。夜中に、用を足そうとドアを開けたところ、除雪したはずのドアの前に、既に50センチ近い雪の壁が出来上がっていた。今日は、一瞬日が差したりしたものの、昨日にもまして強い吹雪になっており、気温もマイナス15度近い。頂上再挑戦も聖山平の急斜面もあきらめ、スノーシューを履いていても膝〜腰までがもぐる深雪をラッセルしながら、早々に下山し、昼にはスキー場に着いた。いかにも冬らしい山を経験できてよかった。


(補)去年も同じようなことをした記憶がある(2013年1月15日記事)。上の25000分の1地形図に関することで、私は国土地理院に問い合わせをしたところ、即座に回答があった。更新を停止したというのは、「2万5千分の1地形図情報閲覧サービス」という国土地理院内のサイトにおいてであって、紙の地形図については、更新停止どころか、昨年の11月から新たな多色刷りバージョンの刊行を始めたらしい。それに伴う大幅な値上げもあったようだが、まずは一安心。

詳しくは、http://www.gsi.go.jp/chizuhensyu/chizuhensyu60002.html 参照。

(1月14日記)