GPSまたは地図情報の問題



 昨日の続き、蔵王へ行った時の話である。

 私と共にコーチとして同行した大学の先生Oさんが、GPSという文明の利器を持ってきた。小さな画面ではあるが、地形図が写り、視界がなくてもピンポイントで現在位置が示されるという優れものである。私は、それなりに読図に自信を持っているが、それでも、自分が紙の地形図上でここと指し示した場所がGPSの表示と一致すると、「当たった!」と嬉しくもなるし、安心もする。違った場合(今回はなかったけど・・・)、なんだこのGPSおかしいんじゃないの?とはならないような気がする。それほど文明の利器への信頼、もしくは卑屈感は大きい。

 しかし、若者がGPSを持ち歩き、紙の地形図を使わなくなるのは絶対にいけない。

 例えば、エベレストに登る登山者は、高度順化を行い、7500メートルくらいまでは酸素ボンベ無しでも活動できる状態を作り、最後の1000メートルほどで、やむを得ない場合、酸素ボンベを使う。なぜ、7500メートルまでは我慢するかというと、ボンベを運び上げるのが大変だから酸素の使用を最少にする、というだけではない。大金持ちなら、たくさんのシェルパやポーターを動員して、大量の酸素ボンベを荷揚げし、ベースキャンプから酸素を吸うことも可能である。しかし、それをしないのは、挑戦として面白くないというだけではない。例えば、高度順化をしない人が、8000メートルで突然機器の故障で酸素を吸えなくなった場合、意識を失って死んでしまう。そのようなトラブルが発生しても生きて帰ってこれるようにするためには、出来るだけ酸素ボンベに頼らず、高度順化をするしかないのだ。

 同じ事である。GPSが壊れたら、電池が切れたら、もうそれでおしまいというのは困る。それが文明の限界だ。紙の地図を防水し、飛ばされないようにひもでつなぎ止め、コンパスと共に使うことの方が、深刻なトラブルにはなりにくいのである。このことは、あらゆる文明の利器について言える一般的教訓だ。


 ところで、今回、私はあえて、昭和55年修正という古い地形図(国土地理院の2万5千分の1地形図)を持って行った。なぜなら、現在の地形図には聖山平のリフトが載っていないが、私の古地図には載っているからである。聖山平・井戸沢越えのルートをたどる際、この情報はあった方がいい。

 澄川スキー場には現在3本のリフトがあるが、昔はもう1本、聖山平から井戸沢越えのリフトというものがあった。私が小学校時代に動いていた記憶はあるが、いったいいつ廃止されたのか、調べても分からない。相当昔であることは間違いない。リフトの下は、スキーの滑らない平坦地とものすごい急斜面で、もともとリフトを付けることそのものがおかしいような所だから、営業が成り立たずに廃止、というのはごく自然に納得できる。廃止(営業停止)された後も、設備そのものは撤去されることなく、今でも残っている。ワイヤーもまだ切れていない。

 地形図とは何だろう?それは、地上の様子を客観的に記録した図面である。使用の目的は想定されていない。例えば旅行用の鉄道地図であれば、旅行のために用いられるのだから、営業運転していない鉄道路線廃線や貨物専用線など)は、線路が敷かれていても書かれる必要がない。しかし、地形図の情報は、誰が何のために利用するか分からないのである。地形や建物、交通網などがどのような意味を持つかは、各自が利用の際に判断すべき事であり、それらの要不要を製作者が判断すべきではない。営業を止めたリフトでも、地上に物体として存在している以上、地図上には記載されるべきなのだ。それは間違いなく、山中での行動の際に目印となる。

 私には、国土地理院が何を思ってそのリフトを地図上から抹消したのか、全く理解できない。生徒が持ってきた新しい地図と、私が持って行った古い地図を見比べながら、改めてそんなことを感じていた。


(補)この後、上の記事を国土地理院に送ってみたところ、以下のような返信があった。

国土地理院の2万5千分1地形図等では、スキーリフトを地図に表示すべき対象事項としています。

スキーリフトは「索道」の記号で地図表示されますが、表示の基準としては恒久的でスキーに供するものとなります。

ご質問のありました当該リフトについて、過去の旧版地形図等をもとに調査した結果として、昭和45年測量(初版)の2万5千分1地形図から平成4年修正版以前まで地形図に「索道」として表示されていました。その後、平成4年の地図修正の際に当該リフトが表示基準であるスキーリフトとしての機能を停止(今回の調査でも機能停止で設置場所はゲレンデとして使用されていない)していたことから、地図から削除し現在に至っています。

地図の作成に際しましては、現実社会の全ての事項を記号化して表示することは不可能なことから、優先順位を定めて取捨選択により地図に表現しているものです。本件のリフトにつきましても、修正測量時の現地調査における確認結果(機能停止)を図式(取得及び表示の規則)に照らして削除としたものです。

以上、よろしくお願い申し上げます。」

もちろんこれは、削除の経緯の説明に過ぎず、情報の取捨選択に関する私の意見に対する回答にはなっていない。